この縁談、謹んでお断りいたします〜身代わりお見合いのはずが、冷徹御曹司の運命の花嫁になりました

 額にじわりと汗が滲むが、声だけは崩さないよう努める。

 「改めてご説明の機会をいただけませんか。直接お話しさせていただければ――」
 《このままだと、今回の件は白紙に戻さざるを得ません》

 そのひと言で、背筋が冷えた。
 白紙。つまり契約の見直し。最悪、打ち切りだ。

 「……承知しました」

 どうにか言葉を絞り出す。

 「近日中に、再度ご納得いただける形でご提案いたします」
 《期待してますよ》

 通話が切れる。静まり返ったフロアに、自分の呼吸音だけが残った。

 「……はぁ」

 椅子の背もたれに体を預け、天井を見上げる。
 どこがズレているのかは、わかっている。でも、それをどう修正すれば〝刺さる形〟になるのかが見えない。
 まとわりつくように離れない重い疲れが、今さらのように身体に広がってくる。

 (今日はもう帰ろう)

 頭も気持ちも切り替え、明日の朝から取りかかろうと決め、帆奈美は立ち上がった。