この縁談、謹んでお断りいたします〜身代わりお見合いのはずが、冷徹御曹司の運命の花嫁になりました

 「はい、立原です」
 《すみません、総務なんですけど、来週の社内プレゼンの件で少し確認したくて……》
 「はい、大丈夫です」

 電話口でも落ち着いた声で対応しながら、パソコンで資料を開く。同時進行でいくつもの案件をさばくのは、帆奈美にとっての日常だった。気づけば、時計の針は夕方に差しかかっている。

 (……ちょっと、疲れたかも)

 お昼から帰ってから淹れたコーヒーは、飲む暇もなくすっかり冷めきっている。
 頼られるのは嫌ではない。むしろ、頼られることにやりがいを感じている自分もいる。
 けれど、誰かに「大丈夫?」と気にかけられる側になることは、ほとんどない。

 パソコンの画面を閉じ、軽く肩を回したそのとき、べつの後輩から声をかけられた。

 「立原さん、例のとこらからまた連絡が……」

 顔を上げて彼女を見る。曇った顔と〝例のところ〟という言い回しから、すぐに相手先にピンときた。ここ最近、手こずっている『タカラ製菓』である。国内では三本指に入る大手で、商品に関するマーケットリサーチの依頼が入っていた。

 「内容は?」
 「先日の修正案、やっぱり受け入れられないって。むしろ話が違うって……」

 胸の奥がずしりと重くなる。