この縁談、謹んでお断りいたします〜身代わりお見合いのはずが、冷徹御曹司の運命の花嫁になりました

 男の子は安心したように母親の腕にしがみつき、愛理は少し離れたところでほっとしたように微笑んでいた。

 その光景はすぐに後方へ流れていく。
 宏臣は視線を前へ戻し、わずかに口元を緩めた。
 レストランでは推しの話に夢中になり、肉料理を嬉しそうに頬張っていたかと思えば、今度は迷子の子どもの手を引いて母親を探している。
 作ろうとして作れる振る舞いではない。おそらく、あれが彼女の素なのだろう。

 宏臣は窓の外の夜景を眺めながら、静かに思う。

 (……ますます困ったな)

 この縁談を断る理由は、どこを探しても見あたりそうにない。常に期待され、条件や価値で見られてきた宏臣にとって彼女は唯一、なにも要求しない存在だ。

 宏臣はポケットからスマートフォンを取り出し、履歴から日高の名前をタップした。

 「すみませんが、三木愛理について調べてください」

 彼女について、もっと知りたいと思ったのだ。釣書では網羅できないことまで詳細に。
 それと同時に彼女に関して、なんとなく心に引っかかるものがあった。

 電話口に出た日高は不可解そうな反応だったが、《わかりました》と電話を切った。