この縁談、謹んでお断りいたします〜身代わりお見合いのはずが、冷徹御曹司の運命の花嫁になりました

 そんなのもわからないの?と言いたげだ。

 「ですが、私がそんな話を延々としたとき、宏臣さんは夢中になれるほど好きになるものがあるのは素晴らしいって言ってくれました」

 格式高い家柄の大変さを改めて思う。好きなものを好きと言えないとは、なんて窮屈なのだろう。

 「……宏臣がそんなことを?」
 「はい。悪く言う人もいるかもしれませんが、少なくとも宏臣さんは違います」

 凪子は、目を見開いたまま言葉を失った。

 「あの子が、そんなことを……」

 呟いた声音には驚きと、ほんの少しの戸惑いが混じっている。
 やがて視線を窓の外へと移し、流れていく夜景を眺めながら小さく息を吐いた。

 「昔から、あの子はそういうところがあるのよ。必要なものとそうでないものを、自分の中で勝手に線引きしてしまう。家のためとか立場とか……そういうものより自分がどう思うかを優先する」

 それは咎めるようでいて、どこか誇らしさも滲んでいた。

 「困った子だと思っていたけれど」

 そこで一度言葉を切り、凪子はほんのわずかに苦笑する。

 「私は、窮屈に生きていたのかもしれないわね」