この縁談、謹んでお断りいたします〜身代わりお見合いのはずが、冷徹御曹司の運命の花嫁になりました

 すると、ほっとしたように凪子の肩から力が抜けていく。その拍子に、手にしていたアクリルスタンドがちらりと見えた。

 (えっ、えっ)

 ハッと目を見開く。

 「それ……瑞月ひかる、ですよね?」

 凪子の視線が鋭く跳ね上がる。

 「あなた、わかるの?」
 「もちろんです! 私、大好きで……!」

 つい声が弾む。もしかしたら凪子も好きなのではないか。
 数秒間の沈黙のあと凪子は「そう」と素っ気なく返してきたが、口元がかすかに綻んだように見えた。

 「あなたは、どの役が一番好きなの?」
 「えっ、私はやっぱり昨年のトップお披露目公演の――」

 そこからは、止まらなかった。
 最初はぎこちなかったけれど、話題が深まるにつれて話が大いに盛り上がっていく。

 「あの場面の視線の使い方、見事だったわ」
 「わかります! あの一瞬で空気が変わって」

 気づけば、ふたりとも自然に会話を重ねていた。
 凪子の表情も、いつもの張り詰めたものではない。声も楽しそうに弾んでいる。これまでの関係性からは考えられない状況だ。