この縁談、謹んでお断りいたします〜身代わりお見合いのはずが、冷徹御曹司の運命の花嫁になりました

 宏臣は一瞬だけ視線を外し、再びタブレットへ落とす。

 「そういえば」

 あくまで思い出したような口調で続けた。

 「母の様子はどうだ。なにか言っていたか」

 書類をめくる手は止めない。だが、その問いはべつの意図を含んでいた。

 「……縁談の件でしたら、変わらず前向きにお考えのようです」

 間を置いてから日高は淡々と答える。

 「そうか」

 短く返す。だが、その〝間〟を宏臣は見逃さない。

 (やはり、動いているな)

 母の思惑と、日高の〝調整〟。昼間の出来事が、ひとつに繋がる。
 宏臣はそれ以上なにも問わなかった。

 「引き続き任せる」
 「承知しました」

 一礼して退室する日高の背中を見送ることなく、宏臣は静かに息を吐いた。

 帆奈美に【今夜、会いたい】とメッセージを送る。
 すると、ほどなくして【ごめんなさい。今夜は友人と会う約束があるんです】と返ってきた。