帆奈美のアパートから帰宅した夜、インターフォンが鳴ったとき、宏臣はソファに腰掛けたまま眉を寄せた。こんな時間に来客の予定はない。
モニターに映った顔を見て、ため息をつく。
(やっぱりか)
ドアを開けると、母、凪子が当然のような顔で立っていた。
「突然で悪いわね」
「いえ。母さんが予告をすることのほうが珍しいですから」
皮肉を混ぜても、凪子は気にした様子もなく部屋に入ってくる。ヒールの音が、やけに響いた。
「相変わらず殺風景な部屋ね」
「必要なものは揃っていますので」
淡々と返しながら、来客用のグラスに冷えたお茶を注ぐ。
凪子はソファに腰を下ろし、足を組んだ。
「それで」
間を置かず、本題に入る。
「いつまであの娘に固執しているの」
予想通りの切りだしに、内心で苦笑する。
「固執、ですか」
「そうよ。あなたに相応しい女性はほかにいくらでもいるでしょう」



