この縁談、謹んでお断りいたします〜身代わりお見合いのはずが、冷徹御曹司の運命の花嫁になりました

 日高はいつも冷静で、距離を保った話し方をする人だ。感情をあまり表に出さないからこそ、ああいう言葉が余計に重く感じられる。
 でも、宏臣の秘書である日高が、帆奈美に好意を示すなんてあり得ない話だ。宏臣を裏切るも同然になる。だから、きっと勘違い。
 そう考えようとするのに――。

 「……あの」

 言葉がそれ以上続かない。

 《はい?》

 穏やかな返事が返ってくる。その声音はいつも通りで、先ほどの言葉との温度差にかえって戸惑いが増す。

 「いえ……その、調整の件、よろしくお願いします」

 結局、無難な言葉しか出てこなかった。

 《お任せください。妙な電話をしてしまい、申し訳ありませんでした》
 「いえ、気にしていません」

 言葉と心は裏腹だ。

 《それでは、本日はこれで。あまり夜更かしはなさらないでください》
 「はい。日高さんも」
 《ええ。おやすみなさい》

 そう言って、通話は切れた。
 耳からスマートフォンを離しても、しばらくそのまま立ち尽くす。

 (なんだろう……)

 胸の奥に、言葉にできないざわつきが残っている。不安とは少し違う。でも、安心とも違う。
 ただ、なにかがほんの少しだけ、ずれていくような感覚が残った。