この縁談、謹んでお断りいたします〜身代わりお見合いのはずが、冷徹御曹司の運命の花嫁になりました

 言いきったあと、胸が大きく上下する。
 凪子は、しばらくなにも言わずに帆奈美を見つめていた。
 やがて、感情を抑えた声が凪子の口から零れる。

 「……そう。気持ちは立派ね」

 けれど、その言葉に温度はなかった。

 「でもね、それだけではどうにもならないのが現実なのよ。宏臣の隣に立つということは、東城家を背負うということ。あなたひとりの感情でどうにかなるほど、軽いものではないわ」

 そう言って、凪子は帆奈美に詰め寄った。

 「悪いことは言わない。今のうちに身を引きなさい。あなたのためでもあるし、宏臣のためでもあるわ」

 帆奈美は、唇をきゅっと結んだ。簡単に頷いてしまったら、きっと後悔する。

 「申し訳ありません。私にはできません」

 手も足も震えていたが、声だけはどうにか堪えた。
 凪子は眉をわずかに動かしたあと、大きなため息をついて首を横に振る。

 「話にならないわね。これ以上あなたとお話ししても無駄だとわかったわ。とにかく、東城の家は宏臣とあなたの結婚は認めません」

 最後に鋭い眼差しで帆奈美を居抜き、くるりと踵を返して黒塗りの高級車に乗り込んだ。
 その車が発進するのを見送ったあと、帆奈美は肩を上下させて息を吐き出した。

 (こ、怖かった……)

 全身はまだ強張ったまま。鼓動も速い。
 ただ雨だけは、変わらず静かに降り続いていた。