この縁談、謹んでお断りいたします〜身代わりお見合いのはずが、冷徹御曹司の運命の花嫁になりました

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 定時を少し過ぎたオフィスは、ようやく一息ついたような空気に包まれていた。
 パソコンを落とし、資料をまとめてから席を立つ。いつも通りの動作のはずなのに、どこか気持ちがふわついているのが自分でもわかった。

 エレベーターに乗り込み、閉まっていく扉をぼんやりと見つめながら、宏臣と過ごした週末をふと思い出す。
 推し活以外で充実した休日を過ごしたのは何年ぶりだろう。水族館の楽しい時間のあとに、彼との一夜を思い出して鼓動が速くなる。顔が熱くなって、手をうちわ代わりにしてパタパタと仰いだ。

 今回の顛末を隠さずに打ち明けると、愛理は『そうなる気がしてたよ』とあっけらかんと笑った。ついでに『私のおかげで素敵な人と出会えたね』と悪びれもせずに付け加えたのにはツッコミを入れたくなったけれど、その通りとも言える。愛理の身代わりでお見合いに行かなかったら、彼とは生涯出会うことはなかっただろう。

 幸せな週末を思い返しながら、満ち足りた気持ちでエレベーターを降りた。
 エントランスの自動ドアから外へ出ると、街の輪郭が滲んでいた。音というほどの音もなく、ただ細い糸のような雨が降っていた。

 朝は降っていなかったが、梅雨時はいつ雨に見舞われるかわからない。バッグに忍ばせていた折り畳み傘を開いて歩きだそうとしたそのとき、帆奈美の前に女性が立ちはだかった。