この縁談、謹んでお断りいたします〜身代わりお見合いのはずが、冷徹御曹司の運命の花嫁になりました

 やわらかな口調のまま、線だけは引く。
 そのひと言で、空気がわずかに変わった。

 「宏臣」

 母に低く名を呼ばれたところで、「まぁまぁ」と場を取りなすような穏やかな声が割って入った。
 これまで静かに様子を見ていた父、孝則(たかのり)がカップを置きながら口を開く。

 「凪子、少し落ち着きなさい。宏臣も、きちんと考えて言っているんだろう」
 「あなたはまたそうやって……!」
 「いいじゃないか」

 軽く笑いながら、やんわりと遮る。
 白髪交じりの髪はオールバック。切れ長の鋭い目元だが、穏やかな人柄だと評判だ。妻の凪子とは正反対という声をよく耳にする。
 東城コンツェルンという大企業を率いているだけあり、体から滲み出るオーラには貫禄があるが。

 「宏臣が気に入っているなら、それで十分だと私は思うがね」

 その言葉に、凪子が信じられないものを見るような目を向ける。

 「本気で言ってるの?」
 「ああ。本気だよ」

 あくまで穏やかに頷く父に、宏臣はちらりと視線を向けた。
 あまりにも自然体な助け舟だった。