この縁談、謹んでお断りいたします〜身代わりお見合いのはずが、冷徹御曹司の運命の花嫁になりました

 まだ数回しか会っていない。お見合いだって偽物だったのに。
 それなのに、胸の奥がじわじわと熱を持っていく。否定しなきゃいけないはずなのに、言葉が出てこない。
 それどころか、うれしいと思ってしまった自分に戸惑う。心臓の音がうるさい。さっきまでの緊張とは、まったく違う種類の高鳴りだった。

 「急にそう言われても……」
 「だろうね。だからこうして会って、俺の気持ちをわかってもらおうとしてる」

 こんなふうに真正面からこられたら、拒絶なんてできるわけがない。むしろ、逃げたくないと思ってしまう。
 宏臣の言葉は強引なのに、どこか不思議とやわらかくて、拒む理由をひとつずつ奪っていく。

 (どうしてこんな人に出会ってしまったの)

 熱を帯びたままの鼓動は、しばらく収まりそうになかった。

 そのあとは仕事の話がぽつぽつと続き、宏臣の運転する車は水族館の駐車場に止まった。
 シートベルトを外すのに手間取っているうちに、彼が助手席側に回りドアを開ける。差し出された手に戸惑いつつ自分の手を重ね、車を降りた。

 「……こういう扱いは初めてなんですけど」
 「なら、効果てきめんってわけだ」

 ニヤリと笑う顔まで決まっているのが悔しい。
 このあと解かれると思っていた手は、なぜかそのままだった。歩きだしても、宏臣の指は離れない。