「…………あ」
カーテンから差し込む光が、完全に午後のものだ。
アリアナは跳ね起きた。
「テオ!?」
「ここにいる」
エルリックが肘掛け椅子に深く腰かけ、テオを胸元に抱いてうとうとしていた。
テオはすやすやと眠っている。父子そろって、幸せそうに。
「……殿下」
「ん、起きたか」
「ずっといてくださったのですか」
「乳母に頼もうとしたら、お前が心配だからこのままでいい、と言った自分を思い出したので」
アリアナは枕に顔を埋めた。
「……恥ずかしい……」
「よく眠れたか?」
「……はい。それはもう、死ぬほど」
「それは困る」
笑いを含んだ声がして、エルリックはテオをそっとベビーベッドに戻し、寝台の端に腰を下ろした。
「頑張りすぎだ、お前は」
「でも、テオが——」
「テオはそのうち寝るようになる。少しずつな」
大きな手が、アリアナの爆発した髪をそっと撫でた。
「俺もいる」
「…………」
アリアナはぐずぐずと布団から出てきて、エルリックの肩に頭をもたれさせた。
「……殿下も少し寝てください」
「お前が起きてるのに寝られるわけがないだろう」
「強情」
「誰に似たんだか」
しばらく、ふたりで黙って、すやすや眠るテオを眺めた。
「……かわいいですわね」
「ああ」
「虐げられていますけど」
「それはお前が負けすぎだ」
「指を握られたら誰だって負けます」
「まぁ、俺も負けるがな」
エルリックが小さく笑った。
耳元に唇が触れて、アリアナは耳まで赤くなった。
「虐げられた分、俺がお前を甘やかす。明日も頑張れそうか?」
アリアナはテオを見た。
ぷくぷくのほっぺ。小さな拳。天使みたいな寝顔。
「……はい」
間髪入れず答えてから、付け足した。
「でも、また離縁を宣言するかもしれません」
「そのたびに抱き込むから安心しろ」
「……どちらの話ですか」
エルリックは答えなかった。
ただ、少しだけ、引き寄せる腕に力が入った。
その夜も、テオは元気いっぱい泣いた。
でも二人がかりなら、きっとなんとかなる。
ただし翌朝、今度はエルリックのほうが先に『離縁』を口走っていた。
カーテンから差し込む光が、完全に午後のものだ。
アリアナは跳ね起きた。
「テオ!?」
「ここにいる」
エルリックが肘掛け椅子に深く腰かけ、テオを胸元に抱いてうとうとしていた。
テオはすやすやと眠っている。父子そろって、幸せそうに。
「……殿下」
「ん、起きたか」
「ずっといてくださったのですか」
「乳母に頼もうとしたら、お前が心配だからこのままでいい、と言った自分を思い出したので」
アリアナは枕に顔を埋めた。
「……恥ずかしい……」
「よく眠れたか?」
「……はい。それはもう、死ぬほど」
「それは困る」
笑いを含んだ声がして、エルリックはテオをそっとベビーベッドに戻し、寝台の端に腰を下ろした。
「頑張りすぎだ、お前は」
「でも、テオが——」
「テオはそのうち寝るようになる。少しずつな」
大きな手が、アリアナの爆発した髪をそっと撫でた。
「俺もいる」
「…………」
アリアナはぐずぐずと布団から出てきて、エルリックの肩に頭をもたれさせた。
「……殿下も少し寝てください」
「お前が起きてるのに寝られるわけがないだろう」
「強情」
「誰に似たんだか」
しばらく、ふたりで黙って、すやすや眠るテオを眺めた。
「……かわいいですわね」
「ああ」
「虐げられていますけど」
「それはお前が負けすぎだ」
「指を握られたら誰だって負けます」
「まぁ、俺も負けるがな」
エルリックが小さく笑った。
耳元に唇が触れて、アリアナは耳まで赤くなった。
「虐げられた分、俺がお前を甘やかす。明日も頑張れそうか?」
アリアナはテオを見た。
ぷくぷくのほっぺ。小さな拳。天使みたいな寝顔。
「……はい」
間髪入れず答えてから、付け足した。
「でも、また離縁を宣言するかもしれません」
「そのたびに抱き込むから安心しろ」
「……どちらの話ですか」
エルリックは答えなかった。
ただ、少しだけ、引き寄せる腕に力が入った。
その夜も、テオは元気いっぱい泣いた。
でも二人がかりなら、きっとなんとかなる。
ただし翌朝、今度はエルリックのほうが先に『離縁』を口走っていた。



