君がいた幕末で


しばらく歩いた後。

晋作がふと手を差し出した。

私は首を傾げる。

「え?」

「ほら」

「なに?」

「また犬が来るかもしれん」

一瞬固まる。

子供扱いされてる気がする。

「大丈夫だし」

「そうか」

晋作はあっさり手を引っ込めた。

すると。

なぜか少し不安になった。

私は慌ててその手を掴む。

晋作が振り返る。

私は視線を逸らした。

「……迷子になると困るし」

晋作が笑う。

「素直じゃないな」

「うるさい」

そう言いながら。

私は少しだけその手を握る力を強くした。

そして前を見る。

遠くに町が見えた。

歴史の教科書でしか見たことのない景色。

晋作はその先を見ながら言う。

「ようこそ長州へ」

私の幕末生活が。

今、始まろうとしていた。