幼馴染に彼女ができたとき、私は貴方が好きだと気づいた。

好きじゃないと思っていた幼馴染を好きになってしまった。
ずっとずっと一緒に居た。
ずっとずっと一緒に笑ってた。
ずっとずっと一緒に話してた。
なのに、なんで今なの? 
なんで……。
もっと、早く気持ちに気づいてたら、よかったのに……。
なんで、なんで、なんで……。
意味が分からないよ……。
ずっと好きで、好きで好きで……。
私は気づくのが遅かっただけだ。
でも、全部美羽ちゃんがいたからだ。
多分、美羽ちゃんがいなかったら、湊の彼女にならなかったら気持ちに気づいていないと思う。
苦しいくらい、胸が痛い。
誰かに話を聞いてほしい……。
胸が痛くて、痛くて、痛い。
それは、もう……。
湊が美羽の話をするとき、私の前では見せなかった笑顔を見せる。
それがいちばんつらい。
ただの幼馴染だと分かっていても、もう、止められないくらい好きになってしまった……。
好きで、好きで、大好きで……。


気づいたときにはもう、遅すぎた……。



放課後。
「陽菜ちゃん、一緒に帰ろう!」
後ろから突然かかった明るい声と同時に、私の右腕に、柔らかくて温かい感触が巻き付いた。
「わっ……!? 美羽ちゃん!?」
驚いて振り向くと、そこには満面の笑みを浮かべた美羽ちゃんがいた。
ギュッと私の腕を自分の両腕で抱え込み、胸を押し付けるようにしてぴったりとくっついている。
湊の特別な女の子。
心臓がドクリと跳ねて、苦しさが込み上げる。けれど、美羽ちゃんのキラキラした純粋な瞳に見つめられると、突き放すことなんてどうしてもできなかった。美羽ちゃんは何も悪くない。それに、美羽ちゃんはなぜか、私のことが大好きなのだ。
「えへへ、捕まえた。あのね、今日の放課後、もしよかったら私と遊びに行かない? 湊くんは今日、部活が長引くみたいだし……陽菜ちゃんと二人でお出かけしたいな、なんて」
腕を絡めたまま、美羽ちゃんが上目遣いで私を見上げてくる。
ずっとくっついたままだから、彼女の甘い香水の匂いが鼻をくすぐる。湊も、この匂いを嗅いだのだろうか。そんな雑念を振り払うように、私は慌てて声を絞り出した。
「え、私と……? でも、いいの? 彼女の美羽ちゃんを連れ回したら、湊に怒られちゃうかも」
冗談めかして言ったつもりなのに、声が少し震えてしまう。
すると美羽ちゃんは「もー!」と頬を膨らませて、さらに腕をぎゅーっと引き寄せた。
「関係ないよ! 湊くんは湊くん、陽菜ちゃんは陽菜ちゃん! 私はね、湊くんの幼馴染っていうの抜きにしても、陽菜ちゃんのことがいーっちばん大好きなんだから!」
真っ直ぐに向けられる、眩しすぎるほどの好意。
美羽ちゃんは本当に良い子で、可愛くて、私のことも本気で慕ってくれている。だからこそ、自分の醜い独占欲や、湊への恋心が罪悪感となって胸を刺す。
「……そっか。ありがとう、美羽ちゃん。じゃあ、ちょっとだけ、付き合っちゃおうかな」
私が微笑むと、美羽ちゃんは「やったぁ!」と飛び上がって喜んだ。
校門を出て駅へ向かう間も、美羽ちゃんは私の腕を組んだまま、ずっとぴったりと離れない。歩くたびに二人の肩がぶつかり合って、なんだか不思議な気持ちになる。湊の好きな人は、こんなにも温かくて、人懐っこい女の子なんだ。
「ねえねえ陽菜ちゃん、まずはプリクラ撮りに行こ! 最新の機種、めっちゃ盛れるやつがあるんだよ!」
「ふふ、いいよ。美羽ちゃん、プリクラ好きだもんね」
「うん! 今日撮ったやつは、手帳の一番目立つところに貼るんだから。あ、湊くんに見せびらかして自慢しちゃおっかなー!」
無邪気に笑う美羽ちゃんの横顔を見つめながら、私は自分の胸の痛みをそっと心の奥に閉じ込めた。
湊、あんたの彼女、すっごく可愛いよ。
……悔しいけれど、私なんかじゃ、太刀打ちできないくらいに。
「ほら、陽菜ちゃん行こ!」
「あ、待って、美羽ちゃん、引っ張ると危ないってば!」
腕を組んだまま繋がった手を、美羽ちゃんが嬉しそうに引っぱる。
夕暮れの街へと駆け出す二人の影。
切なくて、だけどどうしても嫌いになれない『恋敵』との、放課後が始まる。