幼馴染に彼女ができたとき、私は貴方が好きだと気づいた。

放課後の夕日が教室の床に、長い影を落としていた。
窓際の席で、私はノートにシャープペンの芯を滑らせていた。
遠くから運動部の掛け声が聞こえる、いつも通りの静かな夕暮れ。
教室の入り口が開き、幼馴染の湊が息を切らせて入ってきた。
「わりぃ陽菜、待たせたか?」
湊は照れくささそうに頭を掻きながら、私の前の席に座った。
その手には、見慣れない可愛いキーホルダーが握られていた。
私の胸の奥が、小さな音を立てて波立つ。
「ううん、全然待ってないよ。それ、どうしたの?」
私は努めて平静を装い、湊の手元を指差した。
湊の顔が、夕日の赤さとは違う熱で、ほんのりと赤く染まる。
「あ、これ? 美羽に『お揃いで持とう』って言われてさ」
美羽。私のクラスメイトであり、そして――湊の彼女。
二人が付き合い始めたのは、ちょうど一ヶ月前のことだった。
「へえ、可愛いじゃん。美羽ちゃんらしいね」
私は笑顔を作った。何度も練習した、完璧な幼馴染の笑顔。
「だろ? なんか照れるけど、あいつが喜ぶならいいかなって」
湊は愛おしそうに、そのキーホルダーをポケットに仕舞った。
その瞬間、私の胸をチクリと刺すような痛みが走った。
これまで何度も感じていた、けれど無視し続けてきた痛み。
湊の視線が、自分ではなく、もう別の女の子を向いている現実。


私と湊は、家が隣同士で、生まれた時からの幼馴染だった。
泥だらけになって遊んだ公園、一緒に通った小学校の通学路。
雨の日に一本の傘を分け合って帰った、中学の帰り道。
湊の隣は、いつでも自分の指定席だと思い込んでいた。
高校に入って、湊が急に大人びて見えた時も。
女子からの告白を「興味ねぇ」と断る湊に、安心していた時も。
すべては「幼馴染だから」という特別な関係のせいだと思っていた。
だが、美羽が現れてから、その「特別」は簡単に塗り替えられた。
美羽の後ろを歩く湊の目は、私に見せるものとは明らかに違った。
それは、一人の女性を愛おしむ、男の人の目だった。
「陽菜? どうした、ボーッとして」
湊が顔を覗き込んできた。距離が近い。
昔なら、からかって小突いていたはずの距離。
なのに、今の私は、その距離に息が詰まりそうになる。
「なんでもない。ちょっと眠くなっちゃって」
「なんだよそれ。早く帰るぞ、置いてくからな」
湊は立ち上がり、私の頭をぽんぽんと叩いた。
その手の温もりが、髪を通じて頭皮に、そして心臓へと染み渡る。
行かないで、と心が叫びそうになるのを、必死で抑え込んだ。
カバンを持って立ち上がると、湊の後ろ姿がいつもより大きく見えた。