高校の卒業式は、雲一つない青空が広がる、暖かな春の日に執り行われた。
体育館に響き渡る拍手の中、私たちは胸に赤くて丸い卒業生のリボンをつけ、慣れ親しんだ校舎を後にした。
校庭のあちこちでは、写真を撮り合う生徒たちの笑い声や、別れを惜しんで涙を流す声が溢れている。
「陽菜ちゃん! 湊くん!」
人混みをかき分けて走ってきたのは、大きな旅行カバンを肩にかけた美羽だった。彼女の胸にも、同じ卒業生のリボンが揺れている。
「美羽!」
「私、この後すぐの新幹線で東京に向かうから、最後に二人の顔が見たくて!……はい、これ!」
美羽が差し出してきたのは、一枚のスマートフォン。
画面に映っていたのは、今日、式が始まる前に教室の窓際で撮ったという、私たち三人の写真だった。
そこには、変に加工されて半目になった私ではなく、心から幸せそうに満面の笑みを浮かべる私と、その隣で少し照れくさそうに笑う湊、そして、二人を真ん中に挟んでピースをする美羽の姿が、鮮明に写っていた。
「あの日、変なプリクラ撮って本当にごめんね。これが、私たちの本当の、最高の『親友の写真』!」
美羽はいたずらっぽく笑うと、目に涙を溜めながら、私の体を思い切り抱きしめてくれた。
「陽菜ちゃん、大好きだよ。湊くん、陽菜ちゃんを泣かせたら、東京から殴り込みにくるからね!」
「あぁ、分かってるよ。ありがとな、美羽」
美羽は涙を袖でゴシゴシと拭うと、振り返ることもなく、前を向いて駅の方へと走っていった。
遠い街へと羽ばたいていく彼女の後ろ姿は、世界中の誰よりも格好良かった。
夕暮れ時。
喧騒が去った静かな通学路を、私と湊は並んで歩いていた。
手元にある卒業証書の筒が、歩くたびにカサカサと小さな音を立てる。
「……終わっちゃったね、高校生活」
「おう。でも、明日からもまたいつもの家で、いつもの朝だしな」
「ふふ、そうだね」
大学は別々の学部だけど、家は隣同士。
私たちはこれからもずっと、お互いの日常の中に当たり前のように存在し続ける。
だけど、私たちはもう分かっている。
その「当たり前」は、決して奇跡なんかじゃなく、お互いがお互いを強く想い、選び続けてきたからこそ続く、特別な時間なのだということを。
いつもの坂道を下りきると、二人の家の前、あのすべての始まりの場所へと辿り着いた。
「陽菜」
湊が足を止め、私の正面に回り込んだ。
夕陽のオレンジ色の光が、湊の真面目な瞳をキラキラと照らし出している。
あの日、教室で私に「俺の彼女になってよ」と言ってくれた時と、全く同じ、世界で一番優しくて大好きな男の人の目。
「高校は卒業したけど、俺たちの関係は、これからもっと長くなるから」
湊は制服のポケットから、小さな、だけど丁寧につくられたシンプルなペアリングを取り出した。
「これ、大学に入ったらちゃんと渡そうと思って、バイトして買ったんだわ。……過去も現在も、この先の未来も、俺の隣はお前だけだから」
不器用な大きな手が、私の右手の薬指に、そっと銀色のリングを滑り込ませる。
夕陽に照らされた指先が、じんわりと熱くなって、視界が急に涙で滲んでいく。
「湊……。ありがとう。私も……ずっと、ずっと湊の隣にいるよ」
私たちが重なり合うように抱きしめ合った瞬間、春の温かい風が吹き抜け、桜の蕾を優しく揺らした。
小学生の頃から、何度も繰り返してきた景色。
だけど今、私の薬指できらめく小さな輝きが、これから始まる二人の新しい物語を祝福してくれている。
「大好きだよ、湊」
「俺も。愛してるよ、陽菜」
夕暮れに、私たちの本当の、そして永遠の約束が静かに溶けていった。
お・わ・り
体育館に響き渡る拍手の中、私たちは胸に赤くて丸い卒業生のリボンをつけ、慣れ親しんだ校舎を後にした。
校庭のあちこちでは、写真を撮り合う生徒たちの笑い声や、別れを惜しんで涙を流す声が溢れている。
「陽菜ちゃん! 湊くん!」
人混みをかき分けて走ってきたのは、大きな旅行カバンを肩にかけた美羽だった。彼女の胸にも、同じ卒業生のリボンが揺れている。
「美羽!」
「私、この後すぐの新幹線で東京に向かうから、最後に二人の顔が見たくて!……はい、これ!」
美羽が差し出してきたのは、一枚のスマートフォン。
画面に映っていたのは、今日、式が始まる前に教室の窓際で撮ったという、私たち三人の写真だった。
そこには、変に加工されて半目になった私ではなく、心から幸せそうに満面の笑みを浮かべる私と、その隣で少し照れくさそうに笑う湊、そして、二人を真ん中に挟んでピースをする美羽の姿が、鮮明に写っていた。
「あの日、変なプリクラ撮って本当にごめんね。これが、私たちの本当の、最高の『親友の写真』!」
美羽はいたずらっぽく笑うと、目に涙を溜めながら、私の体を思い切り抱きしめてくれた。
「陽菜ちゃん、大好きだよ。湊くん、陽菜ちゃんを泣かせたら、東京から殴り込みにくるからね!」
「あぁ、分かってるよ。ありがとな、美羽」
美羽は涙を袖でゴシゴシと拭うと、振り返ることもなく、前を向いて駅の方へと走っていった。
遠い街へと羽ばたいていく彼女の後ろ姿は、世界中の誰よりも格好良かった。
夕暮れ時。
喧騒が去った静かな通学路を、私と湊は並んで歩いていた。
手元にある卒業証書の筒が、歩くたびにカサカサと小さな音を立てる。
「……終わっちゃったね、高校生活」
「おう。でも、明日からもまたいつもの家で、いつもの朝だしな」
「ふふ、そうだね」
大学は別々の学部だけど、家は隣同士。
私たちはこれからもずっと、お互いの日常の中に当たり前のように存在し続ける。
だけど、私たちはもう分かっている。
その「当たり前」は、決して奇跡なんかじゃなく、お互いがお互いを強く想い、選び続けてきたからこそ続く、特別な時間なのだということを。
いつもの坂道を下りきると、二人の家の前、あのすべての始まりの場所へと辿り着いた。
「陽菜」
湊が足を止め、私の正面に回り込んだ。
夕陽のオレンジ色の光が、湊の真面目な瞳をキラキラと照らし出している。
あの日、教室で私に「俺の彼女になってよ」と言ってくれた時と、全く同じ、世界で一番優しくて大好きな男の人の目。
「高校は卒業したけど、俺たちの関係は、これからもっと長くなるから」
湊は制服のポケットから、小さな、だけど丁寧につくられたシンプルなペアリングを取り出した。
「これ、大学に入ったらちゃんと渡そうと思って、バイトして買ったんだわ。……過去も現在も、この先の未来も、俺の隣はお前だけだから」
不器用な大きな手が、私の右手の薬指に、そっと銀色のリングを滑り込ませる。
夕陽に照らされた指先が、じんわりと熱くなって、視界が急に涙で滲んでいく。
「湊……。ありがとう。私も……ずっと、ずっと湊の隣にいるよ」
私たちが重なり合うように抱きしめ合った瞬間、春の温かい風が吹き抜け、桜の蕾を優しく揺らした。
小学生の頃から、何度も繰り返してきた景色。
だけど今、私の薬指できらめく小さな輝きが、これから始まる二人の新しい物語を祝福してくれている。
「大好きだよ、湊」
「俺も。愛してるよ、陽菜」
夕暮れに、私たちの本当の、そして永遠の約束が静かに溶けていった。
お・わ・り



