「おはよ、湊」
いつもの朝。いつもの時間。いつもの駅前。
昨日、あんなに甘い言葉を交わして、キスまでしたのに、朝の景色はいつもと全く変わらない。
だけど、私の心臓のバクバクだけは、昨日からずっと鳴り止まないままだ。
「……おう、おはよ」
振り返った湊は、いつも通り少し着崩した制服姿……なんだけど、目が合った瞬間、フイッと不自然に顔を背けた。
よーく見ると、耳の付け根がうっすら赤い。
なんだ、やっぱり湊も意識してるんじゃん。
「またギリギリじゃん、湊」
「ギリギリじゃねぇよ。まだ五分あるし」
「十分前行動って知ってる?」
「知らなーい」
会話の内容は、小学生の頃から何百回と繰り返してきたもの。
だけど、二人で並んで歩き出したその瞬間、決定的な「違い」に気づいて、私は息が止まりそうになった。
歩くたびに、手の甲と手の甲が、何度も軽くぶつかり合う。
いつもなら、当たっても気にせずガシガシ歩いていたのに、今は触れるたびに電気が走ったみたいに体が熱くなる。
繋ぎたい。
昨日あんなに温かかった手を、もう一度握りたい。
だけど、ここは通学路だ。同じ学校の生徒が、前にも後ろにもたくさん歩いている。
学校の人に見られたら、なんて言われるか……。
そう思って、私はギュッと自分のカバンの持ち手を握り直して、少しだけ湊から距離を置こうとした。
その時。
「……おい」
低い声と同時に、私の右手が、大きな手のひらにガシッと捕まえられた。
驚いて横を見ると、湊は真っ直ぐ前を向いたまま、私の指の間に自分の指を滑り込ませて、ギュッと『恋人繋ぎ』をしてきたのだ。
「み、湊!? 周り、みんな見てるよ!?」
焦って手を引っぱろうとするけれど、湊の力は強くてビクともしない。
「見とけよ。誰に見られても関係ねぇし」
湊は前を向いたまま、ぶっきらぼうに、だけど私の手を絶対に離さないという強い意志を込めて言った。
「俺、もうお前の『ただの幼馴染』でいるの、限界だって言ったろ。学校の奴らにも、ちゃんとお前が俺の彼女だって分からせとく」
「な……っ」
心臓が跳ね上がる。
男らしくて、独占欲が見え隠れする湊の言葉に、顔から火が出そうなくらい恥ずかしい。
だけど、それ以上に、胸の奥がじんわりと甘い幸福感で満たされていく。
「……バカ。もう知らないからね」
私は小さく呟いて、繋がった手に力を込めた。
学校の敷地に入ると、案の定、すれ違う生徒たちが「え……?」「あの二人、手を繋いでる……?」とザワつき始めた。
今まで「付き合ってないのが不思議な幼馴染」と言われていた私たちが、ついに一線を越えたのだ。
その噂は、瞬く間に校内に広がっていくことになる。
下駄箱で手を離し、それぞれの教室へと向かう。
クラスの女子たちに質問攻めにされるのを覚悟しながら教室のドアを開けると――席に座っている美羽と、一瞬だけ目が合った。
美羽は私を見て、フッと小さく、意地悪そうに微笑んだ。
昨日言われた『あんまりのんびりしてると、また誰かに湊くん取られちゃうんだからね』という言葉が頭をよぎる。
美羽は諦めてくれた。
だけど、学校には他にもたくさんの女子がいる。カッコよくて部活でも活躍している湊を、狙っている子は美羽だけじゃない。
「おはよう、陽菜! っていうか、ちょっと! 湊と付き合い始めたって本当!?」
クラスメイトの言葉に我に返りながら、私は自分の胸元をぎゅっと押さえた。
恋人になれた安心感のすぐ後ろから、新しい『焦りと嫉妬』の波が、静かに押し寄せようとしていた。
いつもの朝。いつもの時間。いつもの駅前。
昨日、あんなに甘い言葉を交わして、キスまでしたのに、朝の景色はいつもと全く変わらない。
だけど、私の心臓のバクバクだけは、昨日からずっと鳴り止まないままだ。
「……おう、おはよ」
振り返った湊は、いつも通り少し着崩した制服姿……なんだけど、目が合った瞬間、フイッと不自然に顔を背けた。
よーく見ると、耳の付け根がうっすら赤い。
なんだ、やっぱり湊も意識してるんじゃん。
「またギリギリじゃん、湊」
「ギリギリじゃねぇよ。まだ五分あるし」
「十分前行動って知ってる?」
「知らなーい」
会話の内容は、小学生の頃から何百回と繰り返してきたもの。
だけど、二人で並んで歩き出したその瞬間、決定的な「違い」に気づいて、私は息が止まりそうになった。
歩くたびに、手の甲と手の甲が、何度も軽くぶつかり合う。
いつもなら、当たっても気にせずガシガシ歩いていたのに、今は触れるたびに電気が走ったみたいに体が熱くなる。
繋ぎたい。
昨日あんなに温かかった手を、もう一度握りたい。
だけど、ここは通学路だ。同じ学校の生徒が、前にも後ろにもたくさん歩いている。
学校の人に見られたら、なんて言われるか……。
そう思って、私はギュッと自分のカバンの持ち手を握り直して、少しだけ湊から距離を置こうとした。
その時。
「……おい」
低い声と同時に、私の右手が、大きな手のひらにガシッと捕まえられた。
驚いて横を見ると、湊は真っ直ぐ前を向いたまま、私の指の間に自分の指を滑り込ませて、ギュッと『恋人繋ぎ』をしてきたのだ。
「み、湊!? 周り、みんな見てるよ!?」
焦って手を引っぱろうとするけれど、湊の力は強くてビクともしない。
「見とけよ。誰に見られても関係ねぇし」
湊は前を向いたまま、ぶっきらぼうに、だけど私の手を絶対に離さないという強い意志を込めて言った。
「俺、もうお前の『ただの幼馴染』でいるの、限界だって言ったろ。学校の奴らにも、ちゃんとお前が俺の彼女だって分からせとく」
「な……っ」
心臓が跳ね上がる。
男らしくて、独占欲が見え隠れする湊の言葉に、顔から火が出そうなくらい恥ずかしい。
だけど、それ以上に、胸の奥がじんわりと甘い幸福感で満たされていく。
「……バカ。もう知らないからね」
私は小さく呟いて、繋がった手に力を込めた。
学校の敷地に入ると、案の定、すれ違う生徒たちが「え……?」「あの二人、手を繋いでる……?」とザワつき始めた。
今まで「付き合ってないのが不思議な幼馴染」と言われていた私たちが、ついに一線を越えたのだ。
その噂は、瞬く間に校内に広がっていくことになる。
下駄箱で手を離し、それぞれの教室へと向かう。
クラスの女子たちに質問攻めにされるのを覚悟しながら教室のドアを開けると――席に座っている美羽と、一瞬だけ目が合った。
美羽は私を見て、フッと小さく、意地悪そうに微笑んだ。
昨日言われた『あんまりのんびりしてると、また誰かに湊くん取られちゃうんだからね』という言葉が頭をよぎる。
美羽は諦めてくれた。
だけど、学校には他にもたくさんの女子がいる。カッコよくて部活でも活躍している湊を、狙っている子は美羽だけじゃない。
「おはよう、陽菜! っていうか、ちょっと! 湊と付き合い始めたって本当!?」
クラスメイトの言葉に我に返りながら、私は自分の胸元をぎゅっと押さえた。
恋人になれた安心感のすぐ後ろから、新しい『焦りと嫉妬』の波が、静かに押し寄せようとしていた。



