「ねぇ……陽菜ちゃん!」
「何?」
青空が澄み渡るのが見える教室で私と美羽ちゃんは話している。
「インスタ見たかもだけどね……。私たち別れたんだ……。でも、これからも仲良くしてほしいな……。彼女じゃないけど、私陽菜ちゃんがいっちばん好きだから!」
「……」
何て答えればいいか分からなかった。
別れて嬉しいキモチと、悲しいキモチ。
正直どちらもある。
「陽菜ちゃん……?」
「あ……うん! もちろん! 仲良くしてね!」
「ありがとう!……ねぇ、陽菜ちゃん……。何で恋人、やめたと思う?」
「……え????」
恋人をやめた理由……。
あんなにラブラブだったのに破局するなんて……。
理由が思いつかない……。
「……好きな人がいるんだってさ。湊くんに」
え……???
湊に……好きな人……?
知らなかった……。
すごく胸が痛くなった。
でも、好きな人がいるのに、美羽ちゃんと付き合ったって……どうなのよ。
美羽ちゃんと付き合い始めて好きってなったのかな……?
「ねぇ、誰だと思う?」
「誰って? 美羽ちゃんは知ってるの?」
「うん。知ってる。教えてもらった」
「分かんないよ……」
「……湊くん……、その人のこと愛してるんだって……。ずっと!」
……ずっと……愛してる……。
湊にずっと愛されてるなんて、どんなけ幸せなのだろうか……。
「ウソ……でしょ?」
「嘘じゃねぇよ」
ビクッと肩が跳ねた。
振り返ると、教室の後ろのドアに、湊が立っていた。
いつも通りに少し着崩した制服。いつも通りに少しぶっきらぼうな歩き方。
だけど、その目はまっすぐに私だけを見つめていた。
「じゃあ、邪魔者はいきます! またね、陽菜! ……湊くん!」
「バイバイ……」
「おう! バイバイ……」
今の感じを見ると、仲が悪くなったわけじゃなさそう……。
「湊……。美羽ちゃんとのやつ、見たよ。何があったの? あんなに幸せそうだったのに……」
駆け寄ろうとする私を、湊は片手を挙げて制した。
そのまま、美羽ちゃんがいつも座っていた私の前の席の椅子に、あの日と同じように腰掛ける。
「なぁ、陽菜。お前、俺と美羽が付き合ってから、ずっと変だったろ」
「え……?」
「昼休みに屋上から逃げたり、目がゴミで赤くなったって泣きそうな顔したり、極めつけはあの嘘丸出しのLINE。……お前さ、俺が美羽の話するとき、どんな顔してたか知ってるか?」
心臓が、耳の奥でドクドクと暴れ出す。
全部、気づかれていた。隠せていたと思っていたのは、私だけだったんだ。
「……最悪。気づいてたなら、ほっといてよ。私、ただの幼馴染だし、美羽ちゃんに悪いから諦めようとして――」
「諦めさせるわけねぇだろ」
湊が私の言葉を遮った。その声は、今まで聞いたことがないくらい真剣で、少し震えていた。
「付き合ってなんかねぇよ、最初から」
「……は?」
「俺と美羽は、一秒も付き合ってない。全部、お前を振り向かせるための作戦だったんだよ」
頭の中が真っ白になった。湊が何を言っているのか、一単語も理解できない。
「作戦って……だって、お揃いのキーホルダーとか、誕生日プレゼントとか、それにあの裏庭で……キス、してたじゃん……!」
あの日、私の心をズタズタに切り裂いた、夕陽の中の綺麗なシルエット。あの光景が頭をよぎって、声が震える。
「あれも、全部美羽のアイデア。お前が影で見てるの、美羽は気づいてたから。リップが付いたフリして顔近づけて、親指挟んでキスしてるように見せただけ。……お前を嫉妬させて、いい加減に自分の気持ちに気づかせようって、美羽が協力してくれたんだよ」
湊はガシガシと決まずそうに頭を掻いた。
「美羽はお前のことが本当に大好きだから、お前が自分を押し殺して『幼馴染の笑顔』を作ってるのが許せなかったんだって。……もちろん、一番悪いのは、そうでもしないとお前に男として見てもらえなかった俺だけどな」
信じられない事実が、次々と溢れ出てくる。
じゃあ、あの時も、あの時も……。美羽ちゃんが私に「好きな人に好きな人がいたら奪う?」って聞いてきたのも、全部、私に本音を言わせるためだったんだ。
「俺さ、ずっとお前が好きだったんだよ」
湊が椅子から立ち上がり、私の一歩手前まで進み出た。
夕陽の光が、湊の真面目な瞳をキラキラと照らしている。
「幼馴染だからって安心したフリして、他の男に取られたら死ぬほど後悔するって思った。だから、最低な方法だけど、美羽に頭を下げて恋人のフリしてもらった。……陽菜、めちゃくちゃ傷つけてごめん。でも、もう幼馴染のフリすんの、限界なんだわ」
湊の大きな手が、私の両肩をそっと包み込む。その手の温もりは、あの日髪をポンポンされた時よりも、ずっと熱くて、確かだった。
「俺の彼女になってよ、陽菜」
視界が、今度こそ本当に涙でボヤけた。
悔しくて、愛おしくて、嬉しくて、胸がはち切れそうになる。
「バカ……! 湊のバカ! どれだけ苦しかったと思ってんの、私……!」
「おう、ごめん。これから一生かけて形にすっから」
そう言って、湊は優しく笑った。私の知らない「誰かの恋人」の顔じゃない。私だけに向けてくれる、世界で一番優しい男の人の顔。
湊の顔がゆっくりと近づいてくる。
今度は親指なんか挟まない、夕暮れの教室で交わされる、私たちの本当の、初めてのキスだった。
「何?」
青空が澄み渡るのが見える教室で私と美羽ちゃんは話している。
「インスタ見たかもだけどね……。私たち別れたんだ……。でも、これからも仲良くしてほしいな……。彼女じゃないけど、私陽菜ちゃんがいっちばん好きだから!」
「……」
何て答えればいいか分からなかった。
別れて嬉しいキモチと、悲しいキモチ。
正直どちらもある。
「陽菜ちゃん……?」
「あ……うん! もちろん! 仲良くしてね!」
「ありがとう!……ねぇ、陽菜ちゃん……。何で恋人、やめたと思う?」
「……え????」
恋人をやめた理由……。
あんなにラブラブだったのに破局するなんて……。
理由が思いつかない……。
「……好きな人がいるんだってさ。湊くんに」
え……???
湊に……好きな人……?
知らなかった……。
すごく胸が痛くなった。
でも、好きな人がいるのに、美羽ちゃんと付き合ったって……どうなのよ。
美羽ちゃんと付き合い始めて好きってなったのかな……?
「ねぇ、誰だと思う?」
「誰って? 美羽ちゃんは知ってるの?」
「うん。知ってる。教えてもらった」
「分かんないよ……」
「……湊くん……、その人のこと愛してるんだって……。ずっと!」
……ずっと……愛してる……。
湊にずっと愛されてるなんて、どんなけ幸せなのだろうか……。
「ウソ……でしょ?」
「嘘じゃねぇよ」
ビクッと肩が跳ねた。
振り返ると、教室の後ろのドアに、湊が立っていた。
いつも通りに少し着崩した制服。いつも通りに少しぶっきらぼうな歩き方。
だけど、その目はまっすぐに私だけを見つめていた。
「じゃあ、邪魔者はいきます! またね、陽菜! ……湊くん!」
「バイバイ……」
「おう! バイバイ……」
今の感じを見ると、仲が悪くなったわけじゃなさそう……。
「湊……。美羽ちゃんとのやつ、見たよ。何があったの? あんなに幸せそうだったのに……」
駆け寄ろうとする私を、湊は片手を挙げて制した。
そのまま、美羽ちゃんがいつも座っていた私の前の席の椅子に、あの日と同じように腰掛ける。
「なぁ、陽菜。お前、俺と美羽が付き合ってから、ずっと変だったろ」
「え……?」
「昼休みに屋上から逃げたり、目がゴミで赤くなったって泣きそうな顔したり、極めつけはあの嘘丸出しのLINE。……お前さ、俺が美羽の話するとき、どんな顔してたか知ってるか?」
心臓が、耳の奥でドクドクと暴れ出す。
全部、気づかれていた。隠せていたと思っていたのは、私だけだったんだ。
「……最悪。気づいてたなら、ほっといてよ。私、ただの幼馴染だし、美羽ちゃんに悪いから諦めようとして――」
「諦めさせるわけねぇだろ」
湊が私の言葉を遮った。その声は、今まで聞いたことがないくらい真剣で、少し震えていた。
「付き合ってなんかねぇよ、最初から」
「……は?」
「俺と美羽は、一秒も付き合ってない。全部、お前を振り向かせるための作戦だったんだよ」
頭の中が真っ白になった。湊が何を言っているのか、一単語も理解できない。
「作戦って……だって、お揃いのキーホルダーとか、誕生日プレゼントとか、それにあの裏庭で……キス、してたじゃん……!」
あの日、私の心をズタズタに切り裂いた、夕陽の中の綺麗なシルエット。あの光景が頭をよぎって、声が震える。
「あれも、全部美羽のアイデア。お前が影で見てるの、美羽は気づいてたから。リップが付いたフリして顔近づけて、親指挟んでキスしてるように見せただけ。……お前を嫉妬させて、いい加減に自分の気持ちに気づかせようって、美羽が協力してくれたんだよ」
湊はガシガシと決まずそうに頭を掻いた。
「美羽はお前のことが本当に大好きだから、お前が自分を押し殺して『幼馴染の笑顔』を作ってるのが許せなかったんだって。……もちろん、一番悪いのは、そうでもしないとお前に男として見てもらえなかった俺だけどな」
信じられない事実が、次々と溢れ出てくる。
じゃあ、あの時も、あの時も……。美羽ちゃんが私に「好きな人に好きな人がいたら奪う?」って聞いてきたのも、全部、私に本音を言わせるためだったんだ。
「俺さ、ずっとお前が好きだったんだよ」
湊が椅子から立ち上がり、私の一歩手前まで進み出た。
夕陽の光が、湊の真面目な瞳をキラキラと照らしている。
「幼馴染だからって安心したフリして、他の男に取られたら死ぬほど後悔するって思った。だから、最低な方法だけど、美羽に頭を下げて恋人のフリしてもらった。……陽菜、めちゃくちゃ傷つけてごめん。でも、もう幼馴染のフリすんの、限界なんだわ」
湊の大きな手が、私の両肩をそっと包み込む。その手の温もりは、あの日髪をポンポンされた時よりも、ずっと熱くて、確かだった。
「俺の彼女になってよ、陽菜」
視界が、今度こそ本当に涙でボヤけた。
悔しくて、愛おしくて、嬉しくて、胸がはち切れそうになる。
「バカ……! 湊のバカ! どれだけ苦しかったと思ってんの、私……!」
「おう、ごめん。これから一生かけて形にすっから」
そう言って、湊は優しく笑った。私の知らない「誰かの恋人」の顔じゃない。私だけに向けてくれる、世界で一番優しい男の人の顔。
湊の顔がゆっくりと近づいてくる。
今度は親指なんか挟まない、夕暮れの教室で交わされる、私たちの本当の、初めてのキスだった。



