仕事中は嫌な男なのに、残業中だけ声が甘すぎる ~ペン先より俺に恋しろ、と迫られました~

背中越しに聞こえた低く端正な声に、身体がピクンと跳ねた。

「っっ!……えっ?黒川?!」
「よく分かりましたね」 

振り返るより先に名前を呼んでしまった。
……いや、だって分かるでしょ。
あんな声、他にいない。

「というか、こんな時間にうちのフロアで何してるの――っひゃあ!」

質問を遮るように、頬に缶コーヒーの冷たさがひろがる。  

「ここ最近、ずっと残業続きだったでしょう?」
「チッ……分かってるわよっ、でもあと少しで思い付きそうなのっ」
「白越さん、休憩も仕事のうちですよ」
「もうちょっとしたら帰るわ……コーヒーありがとう」

缶コーヒーを置いて、パソコンに向き直る。
  
「はぁ……」
 
溜め息とともに、くるっとイスを回された。
左右の肘掛けに手をついた黒川が、ゆっくり顔を覗き込んでくる。
 
距離が近い。
声だけじゃない。
今は吐息まで届きそうだった。 
 
「あんま、根詰めんなや、あほ」 
「っ!……ちょっ」
「ほんま、そういうとこな」
「黒川っ……」  
 
いつもより低く囁くような声が、耳を揺らして胸をふるわす。
黒川が小さく笑った。

「耳?それがどうしたん?」
「そんな近づかなくても、聞こえてるからっ」

身体の力が抜けてしまったのか。
それとも、黒川の腕に囲われているせいなのか。

パソコンに向き直りたいのに、動けないまま。
その間にも、彼の容赦ない声攻めが続く。
二人きりのフロアに、黒川の声がやけにクリアに響く。 
 
「そんな顔して睨んでも怖ないわ」 
「っ……」
「真っ赤やし、何やその涙目……」
「白越、そんな隙見せてええの?」  

ぞくり。
背筋をなにかが駆けぬける。      

(こいつ、絶対わざとだっ)  

私がぷるぷる震えているだけなのを良いことに。
関西弁という素のギャップに、呼吸が乱れていく。 
これ以上、顔を見られたくなくて、精一杯顔を仰け反らした。
  
「いつもの口調は……どこいったのよっ」
「……なに、丁寧語のほうがええの?」