仕事中は嫌な男なのに、残業中だけ声が甘すぎる ~ペン先より俺に恋しろ、と迫られました~

耳から始まったけど、本当はとっくに、恋に落ちてた。

――認めたくないけど。

「――以上で、発表を終わります」

低すぎず、高すぎず、心地いい。
鼓膜をなぞるみたいに響く声が、今日もまっすぐ耳に届く。
 
拍手の波に紛れて、私は小さく舌打ちをする。
同期で同僚の黒川悠大(くろかわゆうた)が、社内コンペのプレゼンを締めくくる。

内容より先に、声に意識を持っていかれる。

(いや、内容も良くて、声も良いとか、余計に腹立つわ)

彼が作った資料を読んでいると、不躾な視線と共に影に覆われた。
顔をあげると、爽やかな笑顔と声にぶつかる。
 
「どうでしたか?俺のプレゼン」
「チッ……良かったと思うけど?」
「商品企画部の白越(しろこし)さんは、いつも舌打ちと一緒に褒めますよね」
「イヤミか」

営業部の黒川は容姿も良くて、仕事もできる。 
女子社員からの人気も絶大だ。
 
『黒川くんって優しいし爽やかだよね』
『仕事もできるしねっ』
 
そんな声を聞くたびに、なぜか関西弁でツッコんでしまう。
 
(顔ちゃうねん)
 
問題は声よ。
皆は顔ばっかり見るけど、本当に反則なのは声の方で――
 
(……いや) 
(何考えてんのよ、あたし) 
 
「は?」
「……でも、いつも良いアイデアだから悔しいっ」
「俺は白越さんのも、いつも感心していますよ」

ほら、その「俺は知ってる」みたいなズルい顔。
これがきっと、他の女子社員が見たら、ときめき指数爆上がりなんだろうけれど。

もやっ。
 
違うから。
 
「……負けてたまるかっ」 

精一杯の睨み顔で黒川を見るも、相手は涼しい顔のまま。 
その言葉と一緒に、もやもやする感情を飲み込んだ。

***
 
黒川のプレゼンが社内コンペを勝ち取ってから数日。      
新作ボールペンの企画書に、頭を悩ます日々。
営業の担当が黒川なので、いつも以上に気合いが入る。
妥協はしたくない。

が、アイデアに煮詰まって、イスから足を投げ出す。

「あぁ……あと、一捻りなんだけどなぁ……」

いつの間にか、フロアに残っているのは私だけ。
時計を見ると、二十二時三十分を回っていた。
もう一度、パソコンの画面に向き直る。

打っては消し、打っては消しを繰り返すだけで、頭が回らなくなってきた。  

(しょうがない、切り上げて今日は帰るか……)
   
「へぇー……良いですね『ペン先で恋して』」