大槻くんの唇はイジワル


「あ、ごめん。ちょっとぼうっとしてた」

 慌てて資料に視線を落とし、苦しい言い訳を口にする。
 大槻くんはデスクに片肘をつき、その綺麗な顔を傾けながら静かに言った。

「……野本さんって、俺のこと好きなんですか?」
「なっ!」

 淡々とした口調でとんでもない質問をされ、盛大に咳き込んでしまった。

「そ、そんなわけないでしょっ?」
「違いました?」
「違うよ! なんでそんなこと思ったの?」

 激しく動揺する私をよそに、大槻くんは表情ひとつ変えないまま、自分の唇を指さした。

「俺と話す時、いつもじっとここを見てるから」

 唇を凝視していたことに気付かれ、体が一気に熱くなる。

 バレないようにこっそり見ていたつもりだったのに……。

 あなたの唇の形が理想的すぎて見とれていました。なんて正直に話したら、絶対に気持ち悪がられる。

 そう思い、私は必死に言い訳をさがす。

「それは、その……。大槻くんの癖が気になって」
「癖?」
「そ、そう! 時々、唇を噛むでしょ」

 大槻くんが無意識の時にする、下唇を噛む癖。
 私がそのことを指摘すると、大槻くんは「あぁ」と納得をした顔をした。

「禁煙してるんで、口寂しくて」
「大槻くん、タバコ吸ってたんだ」
「大学の時ですけどね。この癖、そんなに気になります?」