「そうだね。俺のほうが〝分かってほしい〟って、勝手に期待してたかもしれない」
肩の力を抜く。
「だから余計、あのときの〝ごめん、帰って〟とか、全部ひっくるめて謝ります」
「……分かりました」
胸の奥にたまっていた澱《おり》が、
少しずつ溶けていく感覚。
「許してくれますか」
真剣な目で聞かれて、私は少しだけ笑った。
「〝今日まで生きてきたんだよ〟って言ってくれた人のこと、そう簡単に嫌いにはなれないです」
春日井先輩が、照れたように目をそらす。
「それ、便利な免罪符みたいに使っちゃダメなやつだよ」
「ちゃんと反省してくれたら、使っていいんです」
「左様ですか」
二人で、少し笑った。
ようやく、
あの夜とあの日の病室のあいだに掛かっていた黒い線が、
少し薄くなった気がした。


