夏が始まる音がしてきた。
校庭のひまわり畑が若い葉で光を透かし、
風鈴の音が響き渡る。
それでも、朝の風はまだ少し冷たかった。
昇降口で靴を履き替えながら、
私は廊下の向こうをなんとなく見てしまう。
今日も、まだ来ないかもしれない。
来ないかもしれないけれど、
もし、ひょっとしたら。
「山谷さん」
名前を呼ばれて、顔を上げる。
階段のほうから、
松葉杖の小さな音が近づいてきた。
カツン、カツン。
左足にサポーター。
右足に体重を預けるみたいに、
一歩ずつ。
春日井先輩が、そこにいた。
「……おはようございます」
いつもより、
少し固い声になってしまう。
あの日の病室で投げつけられた言葉が、
まだ胸の奥に残っていた。
「おはよう」
春日井先輩は、
息を少しだけ整えながら笑った。
松葉杖の先が、廊下の床を小さく鳴らす。
「やっと、正式に〝歩く人間〟に復帰しました」
「おめでとうございます」
「ありがとう」
言葉だけ聞けば、いつも通りだ。
でも、間に一枚、
透明な板が挟まっているみたいなぎこちなさがあった。
春日井先輩も、
それを分かっているのだろう。
少しだけ真面目な顔になって、
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