君が照らす人生は、いつだって温かい




その日の夜。

ご飯が終わって、食器を流しに運ぶ。



「今日、帰るの少し遅かったわね」



義母がテレビのリモコンを手にしたまま言う。



「友達と、ちょっと……」



「ちょっと?」



その一言の中に、
『説明を続けなさい』という空気が含まれている。



「体育館で、バスケの試合見てて」



嘘をつこうとして、やめた。

ほんの少しだけ、
瑠奈の『ありがとうに置き換える』ルールを思い出したから。



「バスケ?」



「うん。先輩たちが試合してて。すごくて」



語彙力のなさに、自分でも呆れる。



「……そう」



義母は、リモコンをテーブルに置いた。



「楽しかった?」



意外な質問だった。



「え?」



「バスケ、見てて。楽しかった?」



「うん……楽しかった、です」



口に出してみて、
初めて自分がそう感じていたことを自覚した。

義母は少しだけ目を細めた。



「それなら、よかった」



それだけ言って、立ち上がる。



「でも、テストのことも考えてね」



「あ……はい」



やっぱり最後にはそこに戻る。

でも、『楽しかった?』と聞かれたことは、
なんとなく胸に残った。

皿を洗いながら、
義母の背中に向かって、言葉を探す。

ごめんなさい。

大丈夫です。

私なんか。

どれも、今日の出来事にはしっくりこない。



「……ありがとう」



蛇口の水音に紛れるくらい小さな声で、
呟いてみた。

義母には、届かなかったかもしれない。

でも、自分の耳には、ちゃんと届いた。