「もし、あの子が本当にあのまま消えてたらさ。俺、一生あの夜のこと引きずるなって思ってた」
『消える』という言葉に、胸がきゅっとなる。
「でも、次の春になって」
春日井先輩は、少しだけ笑った。
「同じ制服着た子が、川沿いじゃなくて図書室に座ってて。〝雨宿りの時間〟の話してきて」
「……私です」
「だよね」
真正面から頷かれる。
「だから、怖くて確かめられなかった」
「怖くて?」
「〝あのときの子?〟って聞いて、〝違います〟って言われたら、ちょっと立ち直れないなって」
その言い方が、くすぐったくて、
少し泣きそうだった。
「ごめんなさい。言うの、遅くなって」
「いや」
春日井先輩は、首を振る。
「むしろ、ちゃんと言ってくれてありがとう」
あの夜の川沿いに風が吹く。
冷たくて、痛くて、
それでもどこか優しかった風。
「俺さ」
春日井先輩は、静かに続けた。
「あの夜家に帰ってから、ずっと考えてたんだよね〝あの子、明日もちゃんとここにいるかな〟って」
「……」
「だから、高校の入学式の日、ちょっと川沿い見てから学校行った」
「見たんですか」
「うん。誰もいなかったけど」
少し照れたように笑う。
「でも、学校着いたら、ちゃんと〝ここにいた〟」
あの春の日。
人であふれた昇降口。
初めて踏んだ廊下。
「それだけで、なんか救われた」
春日井先輩の言葉は、まっすぐ胸に刺さる。
「それにさ」
窓の外に視線を向ける。


