◇
「ところでさ」
少し沈黙があったあとで、
春日井先輩がふいに言った。
「山谷さんって、前から俺のこと知ってた?」
「えっ」
「体育館で見てたとかじゃなくて」
春日井先輩は、
天井を見上げるふりをして、
少しだけこちらをうかがう。
「なんかさ。あのとき〝もう会えなくなったらどうしよう〟って顔してたから」
「見てたんですか、あの顔」
「二階席まで、意外と見えるんだよね」
冗談めかして言う。
でも、その問いは、
ずっとどこかで待っていたもののようにも感じた。
――言うなら、今かもしれない。
胸の奥が、どくどくと音を立てる。
川沿いの夜。
冷たい風。
柵。
『今日まで生きてきたんだよ』。
あのときの景色が、一度に蘇る。
「わたしが……中三の冬」
自分の声が、少し震えた。
「川沿いで会ったのって、春日井先輩ですよね?」
春日井先輩の目が、大きく見開かれる。


