君が照らす人生は、いつだって温かい


◇

週末の午後。

私は、電車を一本乗り継いで、
小さな総合病院の前に立っていた。

白い建物。

自動ドアの前の植え込み。

車寄せに停まるタクシー。

『面会受付』という札の前で、
一度だけ深呼吸をする。



「えっと……春日井温人さんのお見舞いに来ました」



自分の口から出たフルネームに、
少しだけ現実味が増した。

受付の人が、名簿を確認して、
面会カードを渡してくれる。



「三階のリハビリテーション室の奥の病室です」



「ありがとうございます」



エレベーターに乗り込む。

三階のボタンを押した指が、
少し震えていた。

扉が開くと、消毒液の匂いと、
どこかで鳴る機械音が鼻と耳をくすぐる。

歩いていくと、
『リハビリテーション室』というプレートが見えた。

ガラス越しに中を覗くと、
平行棒の間をゆっくり歩くお年寄りや、
マットの上で足を動かしている人たちが見える。

その端のほうで、
片足にサポーターを巻いた高校生が、
理学療法士らしき人と一緒にゴムバンドを引っ張っていた。

春日井温人。

ジャージ姿。

髪はいつもより少し伸びていて、
前髪が額にかかっている。

真剣な顔で、黙々と足を動かしていた。

ガラス越しに見ているだけで、
喉の奥が熱くなる。

『あの転んだ音』の続きに、
やっとたどり着いた気がした。

しばらく見つめていると、
彼がふと顔を上げた。

目が合う。

一瞬、時間が止まった。

驚いたように目を見開いたあと、
彼は小さく笑った。

リハビリが終わるのを、
廊下の椅子に座って待つ。

やがて、
汗を拭きながら出てきた春日井先輩が、
少し足を引きずりながら近づいてきた。



「……マジで来た」



開口一番、その言葉だった。



「来ちゃいました」



自分でも驚くほど、普通に言えた。



「いや、来てくれて嬉しいんだけどさ」



彼は、首の後ろをかきながら続ける。



「なんか、病院で会うの、すげー変な感じ」



「体育館より、白いですね」



「それな」



二人で、同時に少し笑った。