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週末の午後。
私は、電車を一本乗り継いで、
小さな総合病院の前に立っていた。
白い建物。
自動ドアの前の植え込み。
車寄せに停まるタクシー。
『面会受付』という札の前で、
一度だけ深呼吸をする。
「えっと……春日井温人さんのお見舞いに来ました」
自分の口から出たフルネームに、
少しだけ現実味が増した。
受付の人が、名簿を確認して、
面会カードを渡してくれる。
「三階のリハビリテーション室の奥の病室です」
「ありがとうございます」
エレベーターに乗り込む。
三階のボタンを押した指が、
少し震えていた。
扉が開くと、消毒液の匂いと、
どこかで鳴る機械音が鼻と耳をくすぐる。
歩いていくと、
『リハビリテーション室』というプレートが見えた。
ガラス越しに中を覗くと、
平行棒の間をゆっくり歩くお年寄りや、
マットの上で足を動かしている人たちが見える。
その端のほうで、
片足にサポーターを巻いた高校生が、
理学療法士らしき人と一緒にゴムバンドを引っ張っていた。
春日井温人。
ジャージ姿。
髪はいつもより少し伸びていて、
前髪が額にかかっている。
真剣な顔で、黙々と足を動かしていた。
ガラス越しに見ているだけで、
喉の奥が熱くなる。
『あの転んだ音』の続きに、
やっとたどり着いた気がした。
しばらく見つめていると、
彼がふと顔を上げた。
目が合う。
一瞬、時間が止まった。
驚いたように目を見開いたあと、
彼は小さく笑った。
リハビリが終わるのを、
廊下の椅子に座って待つ。
やがて、
汗を拭きながら出てきた春日井先輩が、
少し足を引きずりながら近づいてきた。
「……マジで来た」
開口一番、その言葉だった。
「来ちゃいました」
自分でも驚くほど、普通に言えた。
「いや、来てくれて嬉しいんだけどさ」
彼は、首の後ろをかきながら続ける。
「なんか、病院で会うの、すげー変な感じ」
「体育館より、白いですね」
「それな」
二人で、同時に少し笑った。


