「担架!」
誰かが叫ぶ。
白い担架が運ばれてきて、
春日井先輩の体が、そっと持ち上げられる。
左足首には、
さっきまで見えていたテーピングとは別に、
新しいサポーターが巻かれていく。
彼は、天井のほうを見たまま、
何かを飲み込むみたいに目を閉じた。
拍手が起きる。
『頑張れ』
『戻ってこい』
『春日井!』。
いろんな声が飛ぶ。
私は、そのどれにも混ざれない。
喉が、固く結ばれてしまったみたいだった。
担架がコートの外へ運び出されるとき、
一瞬だけこちらを向いた横顔。
目が合ったかどうか、自信はない。
でも、
もしあれが『さよなら』の顔だったとしたら。
私は、何も返せなかった。


