君が照らす人生は、いつだって温かい


◇

放課後、チャイムが鳴っても、
私はすぐには席を立てなかった。

教科書を鞄にしまって、机の中を片付けて。

周りのざわめきが一段落してから、
ようやく立ち上がる。



「あ、今日、どうする?」



瑠奈が鞄を肩にかけながら声をかけてきた。



「部活見学、行く?」



体育館の方角を、いたずらっぽくあごで示す。



「……勉強しなきゃ」



条件反射で、そう答えていた。

さっきまで、
ノートの片隅に音符マークを描いていたくせに。



「それ、本心と建前が半々って顔してる」



「どんな顔」



「〝行きたいけど行けないことにしときたい顔〟」



よくそんな長い名前の顔が分かるな、と思う。



「行きたいの?」



「……ちょっとだけなら」



そう認めるのに、少し時間がかかった。



「じゃ、ちょっとだけ覗こ。バスケ部、今日練習試合なんだって」



「なんでそんなこと知ってるの」



「情報通だから。あと、体育館の貼り紙」



本人が自認する情報源は、案外普通だった。



「でも、うちの親、いつもと違う時間に帰ったらうるさいし」



「何時に帰れって言われてるの?」



「特には言われてないけど……」



「じゃ、いいじゃん」



単純な理屈で押し切られる。



でも、
心のどこかで『一回くらいなら』という声も聞こえていた。



「……少しだけ、なら」



「よしきた。じゃあ行こう、〝少しだけ〟」



瑠奈はにやりと笑って、私の腕をつかんだ。

教室のドアの向こうに続く廊下が、
少しだけ違う世界につながっているように見えた。