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放課後、チャイムが鳴っても、
私はすぐには席を立てなかった。
教科書を鞄にしまって、机の中を片付けて。
周りのざわめきが一段落してから、
ようやく立ち上がる。
「あ、今日、どうする?」
瑠奈が鞄を肩にかけながら声をかけてきた。
「部活見学、行く?」
体育館の方角を、いたずらっぽくあごで示す。
「……勉強しなきゃ」
条件反射で、そう答えていた。
さっきまで、
ノートの片隅に音符マークを描いていたくせに。
「それ、本心と建前が半々って顔してる」
「どんな顔」
「〝行きたいけど行けないことにしときたい顔〟」
よくそんな長い名前の顔が分かるな、と思う。
「行きたいの?」
「……ちょっとだけなら」
そう認めるのに、少し時間がかかった。
「じゃ、ちょっとだけ覗こ。バスケ部、今日練習試合なんだって」
「なんでそんなこと知ってるの」
「情報通だから。あと、体育館の貼り紙」
本人が自認する情報源は、案外普通だった。
「でも、うちの親、いつもと違う時間に帰ったらうるさいし」
「何時に帰れって言われてるの?」
「特には言われてないけど……」
「じゃ、いいじゃん」
単純な理屈で押し切られる。
でも、
心のどこかで『一回くらいなら』という声も聞こえていた。
「……少しだけ、なら」
「よしきた。じゃあ行こう、〝少しだけ〟」
瑠奈はにやりと笑って、私の腕をつかんだ。
教室のドアの向こうに続く廊下が、
少しだけ違う世界につながっているように見えた。


