「……考えとく」
やっと出たのは、その言葉だった。
「出た、〝考えとく〟」
美由紀は苦笑する。
「でも、温人の〝考えとく〟は、五割以上の確率で〝やる〟だからね」
「そんな統計いつ取ったんだよ」
「十年ちょい一緒にいれば分かる」
ドラムにスティックを置く音が、軽く響く。
「ま、とりあえず。次の練習試合はコートの外から見守ってて」
「コートの外って、ベンチかよ」
「うん。〝これくらい平気〟って無理しそうになった時、私の顔思い出していいから」
「それ、余計プレッシャーなんだけど」
「いいプレッシャーのはず」
美由紀は、譜面をバッグにしまった。
「次の試合、勝ったらさ」
ドアの前で、ふと美由紀は振り返る。
「〝ここで勝てたら一気に注目される〟ってコーチも言ってたけど」
「まあ、そうだな」
「でもね、それと同時に、〝ここで無茶して怪我したら終わる〟ってことも忘れないで」
冗談みたいな口調で言うけれど、
目だけは本気だった。
その『終わる』が、
どれくらい現実味のある言葉なのか。
まだちゃんとは分かっていなかった。
でも、左足首の内側で、
小さくうずく何かが、
『あんまりナメんなよ』と囁いていた。


