「だから……」
春日井先輩は、少し息を吸った。
「またここで歌うとき、もしよかったら、俺にも聴かせて」
「え?」
「もちろん、嫌だったら無理しなくていいけど」
急にトーンを落とす。
「〝また聴かせて〟って言われるの、プレッシャーだろうし」
「……」
私は、机の縁を指でなぞりながら、考えた。
さっきまで、
一人だけの場所だったここに、
もう一人誰かが入ってくる。
その誰かは、
『今日もちゃんとここにいるね』と歌う私の声を、
ちゃんと聴いてくれる人。
怖さと、嬉しさと、恥ずかしさ。
でも、あの夜、
誰かに言われた『生きててえらい』という言葉が、
背中を押した。
「……いいです」
小さな声で言う。
「また、聴いてください」
春日井先輩の目が、ぱっと明るくなった。
「ほんと?」
「はい。ただし……」
「ただし?」
「私が、ちゃんと歌えるときだけ」
「それはそうだね」
二人で、同時に笑った。
教室の空気が、
さっきまでより少しだけ軽くなった気がする。


