「でも、びっくりしました。誰も来ないと思ってて」
「ごめんね。俺も、誰もいないと思ってた」
春日井先輩は、教室の中を見回した。
「たまにここ、来るんだよね。ストレッチしたり、動画見たり」
「ここで……?」
「うん。部室だと、人多いし、体育館はいつも誰かいるし」
人気者にも、
ひとりになりたい場所があるのだと知って、
少し安心する。
「山谷さんは?」
「え?」
「なんでここ?」
「えっと……音楽室だと、誰か来そうで」
「たしかに」
同意するようにうなずく。
「音楽室って響きすぎるしね。空き教室くらいがちょうどいいよ、歌うの」
「……そうなんですか?」
「うん。俺も、たまにここで自主練してたし。バスケの」
そう言って、
彼は片手でドリブルする仕草をしてみせた。
床にはボールの跡なんてないけれど、
そのイメージだけで教室が少し広くなった気がする。
「さっきの曲、〝傘閉じ〟だよね?」
「はい……」
「やっぱり」
春日井先輩は、嬉しそうに笑った。


