「……ごめん。勝手に入って」
聞き慣れた声。
ゆっくり振り向くと、
ドアのところに春日井温人が立っていた。
「は、春日井先輩……」
自分の声が、
さっき歌っていたときよりもずっと高くなっている。
「ごめん、本当に。誰かいると思わなくて」
先輩は、
申し訳なさそうに言いながらも、
目が少し潤んでいた。
「続き、聴きたかったな」
その一言で、顔が一気に熱くなる。
「い、今の、聞いてました?」
「途中から」
「うそ……」
耳まで赤くなっていくのが自分でも分かる。
「ごめんなさい!」
条件反射で、またその言葉が飛び出した。
春日井先輩は、少しだけ首を振った。
「なんで謝るの?」
「だって、下手だし、勝手に歌ってたし、その……」
「勝手に歌うのは自由でしょ。ここ、カラオケ禁止って書いてあった?」
「それは……ない、ですけど」
「それに下手じゃなかったよ」
即答だった。
「マジで。上手い下手っていうより、ちゃんと曲を好きで歌ってる感じした」
胸の奥が、じん、とした。
『好きで歌ってる』。
そんなふうに言われたのは、生まれて初めてだ。


