あの夜の川沿いで聞いた言葉と、
歌詞のフレーズが、頭の中で重なる。
『今日まで頑張ってきた君の人生に対して失礼じゃない?』。
『今日もちゃんと、ここにいるね』。
言い方は違うけど、根っこは同じだ。
――まだここにいていい。
「山谷さん、さ」
春日井先輩が、少しだけ真面目な声になる。
「歌ったりする?」
心臓がどくんと鳴った。
「え?」
「いや、なんとなく。昨日、〝傘閉じ〟好きって聞いて、そういう人ってだいたい歌う側に回りがちな気がして」
「う、歌う側……」
昨夜、
自分の部屋でそっと歌ったことが頭をよぎる。
誰にも見られていないと思っていた場所。
「べ、別に、そんな……」
否定しきれずに口ごもると、
先輩は少しだけ首をかしげた。
「ごめん、変なこと聞いた?」
「あ、いや。ちょっとだけ、です」
「ちょっとだけ?」
「昨日、その曲、部屋で小さく歌ってみたりは、しました」
ここまで言ってしまったら、
もう引き返せない。
でも、不思議と後悔はなかった。
「マジで? 聴きたいな、それ」
「む、無理です!」
思わず大きな声が出て、
図書室の司書さんに『静かにね』と視線で注意される。
小声に切り替えて、慌てて続けた。
「ぜったい無理です。恥ずかしすぎます」
「そっか」
春日井先輩は、肩をすくめて笑った。
「でもさ。いつか、そういうの聴けたらいいなって、ちょっと思った」
その『いつか』が、
どれくらい先の話なのか分からない。
明日かもしれないし、卒業式の日かもしれない。
もしかしたら、一生来ないのかもしれない。
それでも、
『そういう未来』を誰かが想像してくれていることが、
少しだけ心強かった。


