君が照らす人生は、いつだって温かい


◇

家に帰ると、キッチンからカレーの匂いがした。



「おかえり」



「ただいま」



義母は、エプロン姿のまま鍋をかき混ぜていた。



「今日も部活見学?」



「うん……バスケ部の試合、またちょっとだけ」



正直に言ってみる。

義母は、少しだけ振り向いた。



「そう。勝ったの?」



「はい。強豪校相手に、僅差で」



「へえ。すごいわね」



驚いたように眉を上げてから、
また鍋に視線を戻す。



「……楽しかった?」



昨日と同じ質問。

昨日より、少し答えやすかった。



「うん。楽しかった」



「それなら、よかった」



義母は、味見をして、少しだけ塩を足した。



「でも、ちゃんとご飯の前に手洗って、宿題もやってからね」



「分かってます」



返事をしながら、ふと聞きたくなった。



「あの、」



言葉の切り出し方が分からなくて、少し息を吸う。



「お母さんも、高校のとき、部活の試合とか、家族に見に来てもらったりしてました?」



義母は、少し意外そうな顔をした。



「んー……一回だけ、かな」



「一回?」



「コンクール。県大会の」



遠くを見るような目になる。



「うちの親、共働きで忙しかったからね。基本、そういうの来ない人たちだったの。だから、そのときだけ来てくれたの、すっごく覚えてる」



「嬉しかったですか?」



「めちゃくちゃ」



即答だった。



「別にね、評価されたいとかじゃないのよ。〝ここにいるよ〟って証明してほしかっただけかも」



〝ここにいるよ〟。

私も、そう思っていたのかもしれない。

中三の冬。

『ここからいなくなりたい』と思っていたのは、実は『ここにいることを認めてほしかった』裏返しだったのかもしれない。



「歩実も、そういうの、ある?」



義母の問いに、少し迷う。



「……あるかも」



素直に頷くと、
義母はうんうんと小さくうなずいた。



「そういうときは、ちゃんと言ってね。〝見に来て〟って」



「え?」



予想外の言葉だった。



「いや……でも、忙しいだろうし」



「忙しいけど、行けるように頑張るよ。そのほうが、〝テスト頑張りなさい〟って言うより、ずっと応援してるって伝わるかもしれないし」



照れくさそうに笑う。



「だから、何か出るときがあったら、ちゃんと言いなさい」



〝何か出るとき〟。

ステージとか、試合とか。

今のところ、
自分がそこに立つイメージはまったくない。

でも、もし――。



「……はい」



それだけ返事をした。

あの夜、
『生きてるだけでえらい』と言ってくれた人がいた。

今、
『何か出るときは見に行く』と言ってくれる人がいる。

私の人生の観客席は、思っていたよりも、
ずっと近くにあったのかもしれない。