「いただきます」
義母と二人、同時に手を合わせる。
箸の音とテレビのニュースだけが、
部屋の空気を埋めていた。
「今日、何限まで?」
沈黙に耐えかねたように、
義母がテレビから視線を外す。
「五限までです」
「テストもうすぐ近いんでしょ。範囲、もう出てるの?」
「うん、出てる」
「じゃあ、そろそろ計画立てないとね」
『そろそろ』という言葉に、
胸のどこかがちくりとした。
中三の冬にも、同じことを言われた。
そのときは、『分かってる』と笑って、
何も分かっていなかった。
「……大丈夫です。ちゃんとやるから」
条件反射で、またその言葉が出る。
義母は少しだけ眉を寄せた。
「〝ちゃんとやるから〟って言葉、信用できなくなってるのよね、私」
ぐさりと刺さる言い方だった。
でも、正しい。
だから反論できない。
「中三のとき、受験ギリギリになって毎日泣きそうな顔で塾行ってたでしょ。ああいうの、見ててしんどかったのよ」
「……ごめんなさい」
またそれだ。
『ごめんなさい』と『大丈夫です』しか持っていない口。
「謝ってほしいわけじゃないの」
義母は箸を置いて、少しだけ息を吐いた。
「ちゃんと自分で計画立てて、無理しないで済むように行動してほしいの。もう高校生なんだから」
高校生なんだから。
その『なんだから』のあとに続くべき言葉が、
私は分からない。
高校生なんだから、恋をしてもいい。
高校生なんだから、夢を見てもいい。
そういう台詞は、
たぶんドラマの中にしか存在しない。
私の知っている『高校生なんだから』の続きは、
いつも『分かるでしょ』とか『一人でできるでしょ』とセットでやってくる。
「……うん」
うまく答えられずに、曖昧にうなずくと、
義母はそれ以上何も言わなかった。
テレビの中で、
知らないアナウンサーが今日の天気を読み上げる。
私たちのテーブルの上空には、
いつもと同じ曇り空がかかっていた。


