「羨ましい?」
瑠奈が、少しだけ真面目な声で聞いてきた。
「え?」
「ああいう、〝ちゃんとしてる感〟」
「……うん。ちょっと」
否定できなかった。
「私、なんかいつも中途半端で。途中で投げ出しちゃったり、やり切れなかったり」
中三の夏の、
ピアノ教室でピアノを弾く風景が脳裏によみがえる。
先生が怖くて、
結局長くは続かなかったあの日のことを。
「でもさ」
瑠奈は、
ポケットからくしゃくしゃになったプリントを取り出した。
「こういうの机の中に放り込んでる私よりは、だいぶ〝ちゃんとしてる〟よ、歩実」
プリントには、
クラス目標とか掃除当番表とか、
いろんなものが混ざっていた。
「ちゃんとしてるかどうかなんてさ、人によって基準違うじゃん。自分をその人基準でジャッジしても、減点されるだけだよ」
「……それはそうかも」
「しかも、あの人たちはあの人たちで、勝手に自分を責めてるからね。〝まだまだです〟とか」
言ってる姿が容易に想像できて、
ちょっと笑ってしまう。
「それにほら」
瑠奈が、コートの隅を指さす。
タイムアウトが終わって、
選手たちがまたコートに散っていく。
その中で、
四番の視線がちらっと二階席に向いた。
さっきよりも、はっきりと。
今度は、目が合った、と思う。
胸が、一拍分止まる。
「完全にこっち見てたよね、今」
「き、気のせいでしょ」
「気のせいじゃない」
瑠奈が、にやにやしながら囁いた。
「昨日、CDの話してた子が、同じ場所から見てるの、分かってるんだよ、きっと」
「……そんな」
そんな都合のいいこと、あるわけない。
でも、もしそうだとしたら。
『ちゃんと見ててくれる人』が、
上にも下にもいることになる。
考えるだけで、足元がふわっと浮いた。


