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家に帰って、自分の部屋のドアを閉める。
机の上に、今日買ったCDを置いた。
プラスチックのケース越しに見るジャケットは、
さっきよりも少し現実感がある。
パキ、と封を切って、
中のブックレットを取り出した。
歌詞カードの文字を指でなぞる。
『雨宿りの途中で』
『さよなら未遂』
『傘を閉じる前に』
『理由のない朝』
どれも、
どこか私の生活の端っこに引っかかりそうな言葉だった。
イヤホンを耳に差し込んで、
一曲目の再生ボタンを押す。
静かなイントロ。
アスファルトに落ちる雨粒の音みたいなギター。
窓の外は晴れているのに、
部屋の中だけ、少し雨の匂いがした。
サビの手前で、
『まだここにいていい理由を探している』というフレーズが出てくる。
胸の奥が、ぎゅっとなった。
あの夜の川沿いで、私も同じことをしていた。
『ここから消えてもいい理由』ばかり探していたけれど、
本当は『まだいてもいい理由』がどこかにないか、
ずっと探していたのかもしれない。
曲が終わって、二曲目、三曲目と続いていく。
四曲目で、ふと、
一曲目のフレーズが違う意味を持ってよみがえってきた。
春日井先輩が言っていた通りだ。
『最初と最後で、
同じメロディなのに意味が変わる』。
最後の『理由のない朝』は、
静かに始まって、
だんだん光が差し込んでくるみたいな曲だった。
歌詞の最後に、
『理由なんてなくても、起きてしまった朝には名前がつく』という一行があった。
名前。
あの夜、私の人生は、
そこで終わるはずだった。
でも、終わらなかった。
終わらなかった朝に、
新しい名前をつけるように、私は今ここにいる。
イヤホンを外して、天井を見上げる。
自分の心臓の音が、少し早くなっていた。
もしかしたら、あの夜の人は、
このCDを何度も聴いてきた人なのかもしれない。
同じ歌詞に、
同じところで立ち止まったことがあるのかもしれない。
そして、今、同じ学校の、
同じ空気の中で息をしている。
「……ありがとう」
誰にともなく、呟く。
あの夜の人に。
この歌を書いた誰かに。
今日、同じCDに手を伸ばしてきた人に。
まだ何も始まっていない。
でも、何かが少しだけ動き出した音が、
確かに聞こえた気がした。


