君が照らす人生は、いつだって温かい


◇

家に帰って、自分の部屋のドアを閉める。

机の上に、今日買ったCDを置いた。

プラスチックのケース越しに見るジャケットは、
さっきよりも少し現実感がある。

パキ、と封を切って、
中のブックレットを取り出した。

歌詞カードの文字を指でなぞる。

『雨宿りの途中で』

『さよなら未遂』

『傘を閉じる前に』

『理由のない朝』

どれも、
どこか私の生活の端っこに引っかかりそうな言葉だった。

イヤホンを耳に差し込んで、
一曲目の再生ボタンを押す。

静かなイントロ。
  
アスファルトに落ちる雨粒の音みたいなギター。

窓の外は晴れているのに、
部屋の中だけ、少し雨の匂いがした。

サビの手前で、
『まだここにいていい理由を探している』というフレーズが出てくる。

胸の奥が、ぎゅっとなった。

あの夜の川沿いで、私も同じことをしていた。

『ここから消えてもいい理由』ばかり探していたけれど、
本当は『まだいてもいい理由』がどこかにないか、
ずっと探していたのかもしれない。

曲が終わって、二曲目、三曲目と続いていく。

四曲目で、ふと、
一曲目のフレーズが違う意味を持ってよみがえってきた。

春日井先輩が言っていた通りだ。

『最初と最後で、
同じメロディなのに意味が変わる』。

最後の『理由のない朝』は、
静かに始まって、
だんだん光が差し込んでくるみたいな曲だった。

歌詞の最後に、
『理由なんてなくても、起きてしまった朝には名前がつく』という一行があった。

名前。
あの夜、私の人生は、
そこで終わるはずだった。

でも、終わらなかった。

終わらなかった朝に、
新しい名前をつけるように、私は今ここにいる。

イヤホンを外して、天井を見上げる。

自分の心臓の音が、少し早くなっていた。

もしかしたら、あの夜の人は、
このCDを何度も聴いてきた人なのかもしれない。

同じ歌詞に、
同じところで立ち止まったことがあるのかもしれない。

そして、今、同じ学校の、
同じ空気の中で息をしている。



「……ありがとう」



誰にともなく、呟く。

あの夜の人に。

この歌を書いた誰かに。

今日、同じCDに手を伸ばしてきた人に。

まだ何も始まっていない。

でも、何かが少しだけ動き出した音が、
確かに聞こえた気がした。