「『出口じゃない扉』」
「あ、それ!」
先輩の顔が一気に明るくなる。
「俺もそこ好き。サビ前の〝まだ行けるくせに〟ってとこ、やばくない?」
口ずさみながら、途中で照れて笑う。
歌詞の一部が、耳の中で再生された。
まだ行けるくせに、
立ち止まるふりをしているだけ。
そんなニュアンスのフレーズ。
「分かります」
小さくうなずく。
「私も、そこ、ぐさってきて」
「だよねー」
共感されたことが、妙にうれしかった。
「この人の歌詞ってさ、ちゃんと〝まだ生きてる人〟に向けて書いてる感じしない?」
何気なく言われた一言に、心臓が跳ねた。
まだ生きてる人。
あの夜の自分は、
「もう生きてる人」ではないつもりで、
柵の前に立っていた。
でも、誰かの声が、
「まだ生きてる側」に引き戻した。
「……そうですね」
言葉が少しだけ震えたのに、
自分でも気づいた。
「なんか、〝もうダメです〟って言いながら、ほんとはまだちょっとだけ期待してる人に向けて書いてる感じ」
「……分かる、気がします」
分かりすぎて、逆にうまく言葉にできない。
「ごめん、いきなり語りすぎたな」
春日井先輩が苦笑する。
「いや……なんか、嬉しいです」
「嬉しい?」
「このCD、手に取ったの、なんとなくなんですけど。誰かが〝いいよ〟って分かってるものなんだって思うと、ちょっと安心するというか」
我ながら、説明が下手だ。
それでも、春日井先輩は真剣に聞いていた。
「分かるよ」
短くそう言う。
「俺も最初、このジャケットだけで手に取ったから。色とか、雰囲気とか」
灰色の街と赤い傘が、二人の間で静かに揺れた。


