◇
「で」
カレーのおかわりをよそいながら、
義母がふと話題を変えた。
「二人とも、まだケンカはしてないの?」
「け、ケンカ?」
スプーンを持ったまま、変な声が出た。
「付き合い始めたら、一回くらいはするもんでしょ」
あまりに自然に言われて、むせそうになる。
「お、お母さん」
「なに」
「そういうの、さらっと言わないで」
「娘と彼氏の現状把握よ。ねえ、春日井くん」
急に水を向けられて、
春日井先輩が姿勢を正した。
「えっと……まだ、してないです」
「まだ?」
「え、〝まだ〟とか言わないでくださいよ」
「いや、いつかはするだろうから」
春日井先輩は、少しだけ笑う。
「でも、ケンカしても、〝今日まで生きてきたんだよ〟って曲で全部ごまかせそうな気がします」
「どういう意味?」
「〝あのとき言いすぎてごめん。でも今日まで生きてきたんだよ〟って」
「それ、便利ワードにしないで」
思わず突っ込む。
義母も吹き出した。


