春日井温人。
ユニフォームではなく、
スクールバッグを肩にかけた私服姿。
でも、背筋の伸び方や、
ちょっと無造作な髪の感じは、
コートの上と同じだった。
「こっちこそ、ごめん」
向こうも、同時にそう言って、
少し苦笑する。
二人の指の先には、同じCD。
灰色の街に赤い傘。
私が離すべきか、向こうが離すべきか、
一瞬分からなくなる。
「あ、どうぞ」
あわてて手を引っ込めると、
春日井先輩は首を横に振った。
「いや、そっちこそどうぞ。俺、もう持ってるから」
「え?」
「それ。前作。めっちゃよくない?」
ジャケットを指さしながら言う。
「えっと、まだ聴いたことなくて……さっき、新しいほうは、ちょっとだけ」
「マジで?」
目が少し見開かれる。
「〝夜向《よむ》こ〟先に行ったんだ」
「よ、夜向こ?」
「ああ、ごめん。『夜明けの向こう』のほう。ファンの間だとそう呼ぶんだよ」
ファン。
この人も、このアーティストのファンなんだ。
「えっと、前のは……なんて呼ぶんですか」
「それは『雨宿り』かな。『雨宿りの時間』。こっちは結構暗いけど、最後の曲でちゃんと救ってくれるから好き」
指先で、トラックリストの一番下を軽く叩く。
そこには、
『理由のない朝』というタイトルが書かれていた。
「好きな曲、ありますか?」
自分でも驚くくらい、自然に口が動いた。
普段、知らない人に話しかけるなんて、
ほとんどないのに。
「好きな曲?」
春日井先輩は、少し考えるふりをした。
「『傘を閉じる前に』も好きだし、『さよなら未遂』もいいし……でも、一枚通して聴いたあとにもう一回一曲目に戻るのが、一番好きかも」
「一曲目?」
「『雨宿りの途中で』。最初と最後で、同じメロディなのに意味が変わる感じがしてさ」
その説明が、やけに具体的で、
音楽の話をするときだけスイッチが入る人みたいだった。


