カレーの匂いが、玄関まで届いていた。
「ただいま」
「おかえり」
リビングから、義母の声がする。
靴を脱いで廊下を進むと、
テーブルの上には大きな鍋と三つの皿。
カレーとサラダと、
やたら山盛りの福神漬け。
「多くない?」
「山谷家は赤が足りないのよ、食卓に」
「栄養バランスの問題?」
「違う、色バランスの問題」
義母が、
おたまを持ったまま肩をすくめた。
テーブルの反対側には、見慣れた横顔。
「おじゃましてます」
春日井先輩が、きちんと正座していた。
普段のジャージ姿とは違う、
ちょっとだけよそいきのシャツ。
でも、落ち着かないのか、
膝の上で指がそわそわしている。
「本当に来たんだ」
「招待したの、あなたでしょ」
義母が笑う。
「〝先輩、うちのカレー食べに来ます?〟って」
「そこまでフランクじゃなかったけど」
思い出して、耳が少し熱くなる。
文化祭から少し経った、週末の夜。
『一度くらい、ちゃんとごはんでも』と義母に言われて、
半分勢いで決まった日だ。


