「山谷歩実さん」
フルネームで呼ばれると、背筋が少し伸びる。
「俺は、山谷さんの人生が好きです」
胸の奥が、じん、と熱くなる。
「途中でやめちゃったこととか、欄干に座ってたこととか、泣いてた夜とか」
ひとつひとつの出来事を、
大事そうに拾うように。
「そういうの全部含めて、〝今日まで生きてきたんだよ〟って歌える山谷さんの人生が、好きです」
涙が一気にあふれた。
こんなふうに、
自分の人生ごと好きだって言われたことなんて、
一度もなかった。
「だから」
先輩は、ほんの少しだけ照れくさそうに笑う。
「これから先、山谷さんが〝自分の人生失敗だな〟って思うたびに、〝そんなことないだろ〟って隣で文句言わせてほしい」
胸が、痛いくらいにあたたかい。
「……それって」
涙でにじむ視界の中、必死に笑う。
「先輩からの、〝付き合ってください〟的なやつですか」
「的な、じゃなくて」
まっすぐ。
「付き合ってください」
その一言が、文化祭よりも、
ライブハウスよりも、
どんなステージよりもまぶしかった。
こんな告白、断れるわけがない。


