「先輩は、コーチの先生と何か話しました?」
「うん。文化祭前に、一回」
「どうでした」
「〝バスケの比重、前みたいには戻せないと思います〟って言ったら、めちゃくちゃ黙られた」
少し苦笑する。
「でも、〝今のチームにも、お前の居場所柄あるならしょうがない〟って言われた」
その言葉を思い出しているのか、
春日井先輩の横顔が少しやわらかくなる。
「ちゃんと、〝逃げた〟ままじゃなくて、〝選んだ〟って言えるようにしたいなって」
その言い方が、妙に胸に響いた。
バスケのコートと、ライブのステージ。
全部の上で、
この人はちゃんと踏ん張ろうとしている。
「……先輩ってさ」
気づいたら、口が勝手に動いていた。
「自分のこと、〝失敗してきた人〟だって思ってますよね」
先輩の左足が、一瞬だけ止まる。
「いきなり核心」
「違いました?」
「違わないから困ってる」
苦笑い。
「まあ、そうだね。怪我して、チームから一回離れて。家でもなんかうまくやれなくて」
ゆっくり歩き出す。
「俺の高校生活、途中までよかったのに、急に〝失敗しました〟って赤ペンで書かれてる気がしてた」
その表現に、痛いくらい共感する。
「私も、です」
自分の足音を聞きながら言う。
「ピアノも、合唱も、塾も。〝やりたい〟って言って始めたくせに、途中で全部やめて」
川沿いの夜。
欄干。
義母の言葉。
「〝何やっても途中で投げ出す子〟って、自分でも思ってた」
黙って聞いていた先輩が、ふっと笑う。
「じゃあ、俺たち、〝自分の人生失敗だと思ってる同盟〟だったのか」
「嫌な同盟」
「でもさ」
歩道橋の手前で、先輩が足を止める。


