「今日まで生きてきたんだよって 言ってくれたその声が 今も耳の奥で ちゃんと鳴っているから」
この一節は、
先輩も好きだと言ってくれた場所だ。
歌いながら、耳の奥が少し熱くなる。
サビ。
「今日まで生きてきたんだよ ここまで来ちゃったんだよ だからもう少しだけ 今日を続けてみようか」
体育館の後ろのほうで、
先生たちの姿が見える。
顧問の先生が、腕を組みながら、
どこか誇らしそうに頷いていた。
サビの最後、『みようか』で、
ほんの少し音程を外す。
でも、ドラムは止まらない。
ベースも。
ギターも。
〝止まらないで続ける練習〟、
ちゃんとしてきたから。
ブリッジ。
春日井先輩のギターソロ。
ライブハウスのときよりも、
指の運びは滑らかだった。
それでも一瞬、コードをつかみ損ねて、
『あっ』と小さく言う声がマイクに乗る。
客席から、クスッと笑いが起きて、
そのあとに拍手が重なる。
体育館の空気が、少しだけやわらかくなる。
最後のサビ。
「今日まで生きてきたんだよ それでも迷ってるけど ここで歌ってる間だけは ちゃんとここにいるから」
〝ここで歌ってる間だけは〟。
それは、自分自身に向けた約束でもあった。
最後の一行を歌い終えた瞬間、
時間が一瞬だけ止まる。
次の瞬間、拍手の波。
クラスメイトの歓声。
誰かが、『歩実ー!』と叫ぶ声。
その喧騒《けんそう》の中で、
体育館の一番後ろ、出入り口近く。
義母が、
ハンカチで目元を押さえているのが見えた。
その姿を見た瞬間、
胸の奥で何かがじわっと溶けていく。


