「ありがとうございます」
拍手。
歓声。
マイクを持ち直す。
「二曲目は、オリジナル曲です」
客席が、少しざわつく。
「タイトルは、『今日まで生きてきたんだよ』って言います」
体育館の空気が、すっと静かになった気がした。
「ちょっと重たいタイトルなんですけど」
自分で言って、少し笑う。
「でも、〝今日まで生きてきちゃった人〟の歌です。よかったら、どっか一行でも持って帰ってもらえたらうれしいです」
義母のほうを見る。
遠くて表情ははっきり分からないけれど、
真っ直ぐこちらを見ているのは分かった。
「聴いてください」
ドラムのスティックが、静かにカウントを刻む。
ワン、ツー、スリー、フォー。
ベースが、低く床を鳴らす。
ギターが、やわらかくコードを刻み始める。
息を吸う。
「今日まで生きてきたんだよ あの夜 川沿いで 欄干に置いた手のひらが 冷たくて笑った」
一行目を歌った瞬間、
体育館の空気が少し変わった。
真ん中らへんで、
誰かが息を飲む音がしたような気がした。
Aメロを歌いながら、
あの夜の光景が鮮明によみがえる。
真っ暗な川面。
遠くの街灯。
冷たい欄干。
そして。
『今日まで生きてきたんだよ』と言ってくれた声。
視界の端に、春日井先輩の横顔が映る。
真剣で、でもどこか楽しそうな顔。
胸が、きゅっとなる。
Bメロ。


