体育館は、いつもより少し暗かった。
バスケットゴールの向こうに、
仮設のステージ。
色あせた赤い幕。
天井からぶら下がる、
手作りの『文化祭ステージ』の横断幕。
ライトが何本か、
本番前のリハーサルでゆらゆらと角度を変えている。
「いよいよだな」
袖でストレッチをしながら、
春日井先輩がつぶやいた。
「胃が痛い」
瑠奈が、ベースを抱えたままお腹をさする。
「痛くても、ベースは持ってて」
「腹巻きベースにする」
「なにそれ」
美由紀さんが、
ドラムスティックで瑠奈の背中を軽くつつく。
「歩実ちゃんは?」
名前を呼ばれて、自分の手のひらを見る。
マイクを握る右手が、いつもより少し汗ばんでいた。
「……怖い。でも、逃げるという選択肢はない」
「名言出た」
春日井先輩が、にやっと笑う。
「じゃ、怖くても逃げない人たちの音、出しに行きますか」
顧問の先生が、袖から顔を出す。
「次、春日井たちのバンドな。準備いいか?」
「はい!」
声だけは、大きく返した。


