「ただ」
視線が、こちらに向いた。
「〝高校生が夜に地下のライブハウスで演奏してます〟って聞くと、親の心臓には悪い」
「……ごめん」
素直に頭が下がる。
「止められても、行ってた?」
義母の問いは、鋭かった。
少し考える。
今日のステージ。
マイクの感触。
ハイタッチ。
全部思い出して、答えが出る。
「たぶん、行ってた」
「正直でよろしい」
義母は、小さくため息をついた。
「そういう答えが返ってくるだろうなーとは思ってた」
「怒ってる?」
「心配してる」
その言い方が、一番こたえた。
「バスケの遠征とか、吹奏楽の本番とか、ちゃんと引率がついてるやつはいいのよ。学校の枠組みの中で責任の所在がはっきりしてるから」
テーブルのプリントを指でトントンと叩く。
「でも今日みたいなやつは、〝本人の責任〟と〝親の責任〟の境目があいまいになる」
言ってることは、分かる。
「危ないことはしてないし、変な人にも絡まれてない。それは、信じてる」
義母は、少しだけ表情をやわらげる。
「ただ、〝これからも同じようにOK出していいのか〟ってなると、正直、迷う」
文化祭。
その先のライブ。
続けたい気持ちと、義母の不安。
両方が、胸の中でぶつかった。
「……やめろって言う?」
自分でも、ずるい質問だと思う。
義母は、しばらく黙って私を見ていた。
「〝今すぐ全部やめなさい〟とは言わない」
ゆっくり口を開く。
「でも、〝何でもかんでもオッケー〟とも必ずしも言えない」
その真ん中にある言葉を、
探しているようだった。
「とりあえず、今日はもう遅いから」
義母は立ち上がる。
「明日、ちゃんと話そう」


