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玄関のドアを開けると、
リビングからテレビの音が聞こえた。
「ただいま」
「おかえり」
義母は、ソファで雑誌をめくっていた。
時計は、もう二十二時に近い。
「遅かったのね」
「ライブ、押してて」
靴を脱ぎながら答える。
「どうだった?」
「まあまあ」
とっさに、そう言葉が出た。
「まあまあ、って?」
「ソロで事故ってた人が一名」
「事故?それ、あなたじゃないわよね?」
「違う。ギターの春日井先輩」
思い出して笑う。
「でも、〝今日まで生きてきたんだよ〟って曲は、ちゃんと歌えた」
その報告だけは、真っ先にしたかった。
義母は、雑誌を閉じてこちらを見る。
「ちょっと待って、歌えた?」
「うん」
「そっか」
短く、それだけ。
でも、その『そっか』には、
いろいろな意味が込められている気がした。
「歩実?」
「あとでも大丈夫?ちょっと疲れちゃって」
鞄を部屋に置きに行こうとして、
一歩目で足が止まる。
玄関からリビングまでの間に、目に入ったもの。
リビングの低いテーブルの上に、
学校から配られたプリントが置きっぱなしになっている。
『校外活動に関するお願い』。
目に入った一行に、心臓が少し強く打った。


